ゴールキーパーの位置取りに関する言説について:あるいは鉛直軸という観点の意義(総説)

佐々木 究(山形大学地域教育文化学部)
桑原 康平(仙台大学体育学部)

論文概要:本稿は,これまでの指導教本や学術論文などを概観して,ハンドボールにおけるゴールキーパーに関係する言説を一定の観点から整理しようとするものである.とくに注目するのは「位置取り」についての言説である.「位置取り」はゴールキーパーの指導教本ではつねに言及されており,また学術論文でもさまざまなかたちで採り上げられている.ゴールキーパーが相手プレーヤーによって放たれるシュートに対して空間的に適切な位置にあることは最終的なシュート阻止を実現するために重要であり,また,その適切性を評価するための基準の確立は不可欠である.しかし,さまざまに言及されているにもかかわらず,この動作に関しては見落とされている観点がある.本稿で試みるのは,教本や論文などの所説を整理し,このことによって,従来見落とされてきたある観点を摘出することである.さらに,ゴールキーパーの位置取りに関する新たな簡易モデルを作成・提示して,その実践上・指導上の意義と限界を検討する.

(受付日:2018年4月3日,受理日:2018年6月20日)

大学生ハンドボール選手における板張りの体育館と土のグラウンド間での最大努力下サイドステップ時の足底圧の差異(原著論文)

平子 大喜(名古屋市立桜台高等学校)
新井 翔太(NPO 法人名古屋スポーツクラブ)
船木 浩斗(中京大学スポーツ科学部)
渡邉 丈眞(中京大学スポーツ科学部)

論文概要:日本では,ハンドボールの主要な大会はすべて室内競技場で行われているが,中学・高校の運動部活動の現状としては,普段の練習を主に板張りの体育館と土のグラウンドの2つの異なるコート環境で行っている.本研究では,大学生ハンドボール選手を対象に,最大努力下のサイドステップ時の足底圧をモニターし,板張りの体育館と土のグラウンドでどのような差異が生じるかを検討した.その結果,最大努力下のサイドステップ時において,土のグラウンドでは,足底部の内側前方への荷重が高値を示し,板張りの体育館では,足関節内反捻挫やACL損傷のリスクを高める可能性がある足底部の外側後方への荷重が高値を示した.これらの結果から,サーフェスを考慮に入れた反復的な動きのコツの練習がより安全であり,より効果的であることが示唆された.

(受付日:2018年8月24日,受理日:2018年11月20日)

49日間の韓国へのハンドボール留学が大学生選手に与えた影響に関する事例研究(実践研究)

富田 恭介(中部大学人間力創成総合研究センター)
山下 純平(愛知教育大学保健体育講座)

論文概要:本研究では,49日間の韓国へのハンドボール留学が2人の大学生にもたらした,ハンドボール観などの意識の変容について,留学へ行く前と行った後のインタビュー調査の内容を質的に分析することを通して検討した.その結果,2人の大学生は,留学前後において,ハンドボール観,技術観,セットディフェンス観,速攻とセットオフェンス観のいずれも変化したこと,意識の変容をもたらしたきっかけは,(1)学生の内発的動機付けに基づく,留学に対する主体的取り組み姿勢,(2)レベルの高い環境での練習,(3)チームメイト(仲間)との関わりと学び合い,の3点が考えられることが明らかになった.

(受付日:2018年8月24日,受理日:2018年11月20日)

ハンドボール女子日本代表における前十字靭帯損傷リスクの評価と予防の試み:2017年度おりひめコンディショニングクリニックを通じて(実践研究)

小笠原 一生(大阪大学医学系研究科, 公益財団法人日本ハンドボール協会)
高野内 俊也(公益財団法人日本ハンドボール協会,一般財団法人日本予防医学協会)
岩谷 美菜子(公益財団法人日本ハンドボール協会)
嘉数 陽介(公益財団法人日本ハンドボール協会)
大西 信三(公益財団法人日本ハンドボール協会 ,筑波大学附属病院)
井本 光次郎(公益財団法人日本ハンドボール協会 , 熊本赤十字病院)
佐久間 克彦(公益財団法人日本ハンドボール協会 , 熊本赤十字病院)
橋詰 謙(大阪大学医学系研究科)

論文概要:膝前十字靭帯(ACL)損傷の予防は,女子ハンドボール選手にとって重要な課題である.日本代表女子ハンドボールチームでは2017年シーズン始めに包括的なコンディショニングチェックを目的とした「おりひめジャパンコンディショニングクリニック」を実施した.本研究の目的は,2017年度ハンドボール日本女子代表チームによる「おりひめジャパンコンディショニングクリニック」に関連して実施した,片脚ドロップ着地テストによるACL損傷リスクの評価と,それに基づく予防の取り組みについて,本邦のハンドボール関係者に広く周知し,特に各年代代表(学生,ジュニア,ユース)やナショナルトレーニングシステム(NTS)参加選手とその指導者,全国の中学高校選手と指導者が ACL 損傷予防に取り組む際に役立つ具体的事例を提供することである.

(受付日:2018年8月8日,受理日:2018年8月21日)

オランダ女子ハンドボールの強化プロジェクト「Orange Plan」(研究資料)

山田 永子(筑波大学体育系)
服部 友郎(筑波大学人間総合科学研究科)
下拂 翔(筑波大学人間総合科学研究科)
吉兼 練(福岡大学スポーツ科学部)

論文概要:オランダ代表女子が,2015年女子世界選手権で2位,2017年女子世界選手権で3位という成績を収めたことは,世界のハンドボール界にとって大きなニュースだった.長年,低迷していた国際競技力を向上させた取り組みである強化プロジェクトは,オランダのナショナルカラーがオレンジであることから「オレンジプラン」と呼ばれ,その経緯や具体的な取り組みについては,オランダハンドボール協会がセミナーやホームページにおいて公開している.本研究では,国際競技力向上に成功しているオレンジプランを明らかにするとともに,オレンジプランから日本の競技力向上に寄与する知見を得ることを目的とした.調査の結果,「オレンジプラン」は,(1)元オランダ代表女子監督4名によってオランダのハンドボールビジョンを明文化,映像化したこと,(2)個人の能力を強化する組織を,まずローカル(市町村レベル)に,次に全国に,最後に地域(都道府県レベル)に設立したこと,(3)指導者資格制度の改革を進めたことによって構成されていることが明らかになった.

(受付日:2018年9月18日,受理日:2018年10月12日)

ドイツ代表チームの守り方:状況に合わせた5:1と6:0ディフェンスの組み合わせ(翻訳)

山本達也(茨城県立石岡商業高等学校)

論文概要:本論文は,2016年のヨーロッパハンドボール連盟(EHF)主催のマスターコーチセミナーで紹介された論文「The German Way-Situation-Specific Combination of 5:1 and 6:0 Defence-」の翻訳である.本論文の筆者は,元ドイツ代表監督,現日本代表監督である Dagur Sigurdsson氏である.筆者はこの論文において,ドイツ代表チームを指揮していた際の5:1ディフェンスと6:0ディフェンスを組み合わせたミックスディフェンスに関して紹介している.本論文には,5:1ディフェンスと6:0ディフェンスそれぞれの長所・短所や2つのディフェンスを組み合わせる際のルールなどが概説されている.

(受付日:2018年9月13日,受理日:2018年10月17日)

これからの小学校体育におけるハンドボール指導に関する実践的課題(日本ハンドボール学会第6回大会講演要旨)

佐藤 靖(秋田大学)

本文より抜粋

小学校の新しい学習指導要領は,東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年より全面実施されます.私たちは学習指導要領の改訂の趣旨を踏まえた教科体育および教科外活動の時間はもちろん,社会生活における多彩なスポーツ活動の中においても,子どもから大人まで誰もがハンドボールの魅力や価値を享受できるように,それらを共通の財産として正しく伝えられるようにしておかなければなりません.…私は教師もコーチと同様に,身体知としての「動感(動く感じ)」,もしくは「動きかた」の要領である<コツ(私は動ける)>と<カン(私は応じられる)>の絡み合い,つまり両者は表裏一体ですが,同時には意識に現れてこないという構造の認識を基盤にして指導しているのではないかと感じています.そして体育やスポーツ指導の実践現場にいる教師やコーチの関心事は,子どもや選手たちの<私は動ける>という<実践可能性>の実現をどのように果たすのかに収斂してくると考えられます.したがって,このような実践理論である発生論的運動学を理解するとともに,様々な「動きかた」の実践可能性の実現に向けた諸課題を検討しながら,そこにかくされた大切な事柄を明瞭にしていかなければなりません…

前学校体育におけるハンドボールの授業実践―ゴール型教材としての取り組みと課題―(日本ハンドボール学会第6回大会シンポジウム要旨)

パネリスト:米村 耕平(香川大学)・小山 浩(常葉大学)・北野 孝一(金沢市立大浦小学校)・中山 雅雄(筑波大学)
コーディネーター:杉森 弘幸(岐阜大学)

本文より抜粋

20年前,小学校学習指導要領に「ハンドボール」が明記され,小学校の現場で実施されるようになりました.これはハンドボール界にとって画期的なことであるとはいえ,ハンドボールの授業が幅広く行われているとはまだまだ言い難く,様々な課題があります.本シンポジウムでは,ハンドボールの授業を導入してもらうためにどのようなアプローチをしていくべきか,そしてゴール型教材として,ハンドボールをどのように考え,工夫し,進めていけばいいのかなど,学校現場に詳しいパネリストの方々にお話しいただきます.また今回は,公益財団法人日本サッカー協会から,2人の専門家にお越しいただきました.日本サッカー協会の方針や取り組みをお聞きし,日本サッカー協会と対比しつつ,ハンドボールの課題や方向性について活発な意見交換や議論ができれば何よりです….