日本のハンドボールにおける小学生年代の選手育成活動に関する歴史的変遷:日本ハンドボール協会が発行している機関誌を対象に(原著論文)

中山 紗織(筑波大学大学院人間総合科学研究科)
會田 宏(筑波大学体育系)

論文概要:本研究では,日本のハンドボールにおける小学生年代の選手育成活動に関する歴史的変遷を明らかにし,小学生年代の選手育成に関する新たな取り組みを行うための知見を提言することを目的とした.日本ハンドボール協会が発行している機関誌の1988年から2018年までの記事を対象に,テキストマイニング分析を行った結果,小学生年代の選手育成活動は,まず個人の攻撃プレー方法を詳細に説明して小学生年代からの技術力養成の重要性を示し,次に海外の選手育成活動を紹介し,その後NTSの内容と活動を報告し,新ゲーム形式の理念を提示してきたと解釈できた.今後日本が小学生年代の選手育成活動に関する新たな取り組みをしていくためには,ゲーム能力の養成を重視しながら,ゲームを中心とした練習の方法を提示していく必要があると考えられた.

(受付日:2019年9月17日,受理日:2019年10月18日).

ハンドボール競技における育成年代のゲームパフォーマンスの特徴:小学生から大学生までの全国トップレベルの試合を対象に(原著論文)

小俣 貴洋(筑波大学大学院人間総合科学研究科)
吉兼 練(日本女子体育大学体育学部)
會田 宏(筑波大学体育系)

論文概要:本研究では,日本国内の育成年代におけるゲームパフォーマンスの特徴を明らかにすることを目的とした.小学生,中学生,高校生,大学生のそれぞれの全国大会ベスト8以上の試合,合計55試合を対象に,年代別,男女別に攻撃のゲームパフォーマンスについて記述的に分析した結果,育成年代における全国トップレベルの試合では,年代が上がるにつれて攻撃成功率が上昇すること,それはシュート成功率の上昇ではなくミス率の低下によること,年代が上がるにつれてオーバーステップが減少し,パス・キャッチミスなど味方選手や相手選手との関係も考慮しなければならないミスが増加すること,女子は男子に比べてミス率が高く,その影響から攻撃成功率が低いこと,攻撃における最終プレーは,年代が上がるにつれて多くの選手に分担されるようになることなどが明らかになった.

(受付日:2019年10月6日,受理日:2019年10月28日)

ライフイベントに着目したハンドボール選手のハーディネスとストレス反応に関する縦断的研究(研究資料)

鈴木 千寿(関東短期大学こども学科)
松井 幸嗣(日本体育大学体育学部)
辻 昇一(日本体育大学体育学部)

論文概要:本研究では,大学女子ハンドボール選手を対象として,ライフイベント(競技生活に関わる出来事)がハーディネスとストレス反応に及ぼす影響について明らかにすることを目的とした.ライフイベントに関する自由記述を含む質問紙調査を2回行い,調査1から調査2について,各変数のPearsonの積率相関係数(r)を算出し,ストレス反応を従属変数,ハーディネスを独立変数とした単回帰分析を行った結果,各時期にハーディネスからストレス反応への負のパス(調査1:-.59,p<.01,調査2:-.46,p<.05)が得られた.このことから,ハーディネスによるストレスの緩衝効果はハンドボール選手においても認められた.また,調査1と調査2の各変数にt検定を行った結果,すべての変数において統計的な差は認められなかったが,得られた自由記述を鑑みると,選手個人ではライフイベントがハーディネスやストレス反応に強く影響していることが明らかとなった.

(受付日:2019年4月9日,受理日:2019年6月25日)

全国中学生ハンドボールクラブチームカップにおける女子大会使用球の規格変更がゲームに及ぼした影響(研究資料)

下拂 翔(国際武道大学体育学部)
小俣 貴洋(筑波大学大学院人間総合科学研究科)
中山 紗織(筑波大学大学院人間総合科学研究科)
福田 丈(筑波大学アスレチックデパートメント)
服部 友郎(筑波大学大学院人間総合科学研究科)
日比 敦史(筑波大学大学院人間総合科学研究科)
水野 尚芳(筑波大学体育専門学群研究生)
高橋 拓己(東京都立葛飾ろう学校)
山田 永子(筑波大学体育系)
藤本 元(筑波大学体育系)
會田 宏(筑波大学体育系)

論文概要:本研究では,全国中学生ハンドボールクラブチームカップにおける女子大会使用球の規格の変更(2号球から1号球へ)がゲーム様相に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした.2号球を使用した2017年大会と1号球を使用した2018年大会における決勝戦,準決勝戦,3位決定戦のゲームパフォーマンスを記述的に分析した結果,攻撃成功率が,特に遅攻において増加し,その要因はシュート成功率の高まりにあることが明らかになった.また,攻撃回数が減少したが,その要因は遅攻の攻撃成功率が向上し,1次速攻の生起率の減少にあること,カットインシュートは増加傾向に,ウィングシュートは減少傾向にあったことなどが明らかになった。これらのゲーム様相の変化から,ボールを小さくすることがユース・ジュニア期の日本女子選手の課題が解決されるための糸口になる可能性が示唆された.

(受付日:2019年9月6日,受理日:2019年10月23日)

女子ハンドボール競技におけるレフトウイングシュートの二次元動作分析:助走と踏切足の違いに着目して(研究資料)

中野 美沙(筑波大学体育系)
山田 永子(筑波大学体育系)
平山 大作(筑波大学スポーツR&Dコア)

論文概要:本研究では,レフトウイングシュートを助走の仕方と踏切足に着目して4つに分類し,それぞれのシュート動作の特徴を二次元動作分析により明らかにし,ウイングシュートを指導する際の一資料とすることを目的とした.本研究では以下の結論が得られた.(1)ダイレクト(コーナーからの助走)はカーブ(フリースローライン付近からの助走)に比べて,離地時の重心速度が大きく,最大重心高およびリリース時のボールの高さが高い.(2)左足踏切は右足踏切に比べて,バックスイング完了までの時間が短く,水平移動距離が短い.(3)球速,跳躍角度は,助走の仕方や踏切足の違いに影響を受けない.これらのことから,ウイングシュートにおいて,高くジャンプすることによってシュート角度を増加させること,およびバックスイング完了を素早くすることによってシュートが打てる時間を増加させるという,ウイングシュートの技術遂行に重要な2つの点において,ダイレクト左足は他の試技に比べて効果的であることが明らかとなった.

(受付日:2019年10月17日,受理日:2019年11月22日)

男子ハンドボール日本ユース代表および日本代表における攻撃の特徴:ノルウェーとスロヴェニアとの比較から(研究資料)

平本 恵介(筑波大学大学院人間総合科学研究科)
山田 永子(筑波大学体育系)
會田 宏(筑波大学体育系)

論文概要:本研究では,2017年に開催された男子ユース世界選手権大会と男子世界選手権大会における日本,ノルウェー,スロヴェニアのゲームパフォーマンスを記述的に分析することで,ユースおよびフル日本代表の特徴を明らかにし,フル代表において日本が重点的に強化すべき内容を提言することを目的とした.分析の結果,ユース日本代表の特徴として,遅攻の生起率が高く速攻の生起率が低いこと,1次速攻の生起率が低く2次速攻の生起率が高いこと,防御者を前方に置いたミドルおよびロングシュートの生起率が高いこと,ミドルおよびロングシュートの成功率は低いわけではないことなどが明らかになった.また,フル日本代表の特徴として,全体の攻撃成功率が低く,その原因は遅攻のシュート成功率の低さにあること,特にサイドシュートと接触時のシュート成功率が低いこと,ポストシュートの生起率が低く,ミドルシュートの生起率が高いことなどが明らかになった.これらのことから,フル代表において日本が重点的に強化すべき内容は,シュート技能の向上であるとこが考えられた.

(受付日:2019年9月19日,受理日:2019年12月5日)

ハンドボールはアンフェアな競技なのか:ファールに関する問題提起(問題提起)

清水 宣雄(国際武道大学体育学部)

論文概要:2018年春,日本ハンドボール協会から,ビデオ映像と共にモダンハンドボールの考え方が示された.それは,プレイに余り影響のないファールには罰則を与えることなく,試合の中断を極力減らすというものであった.しかし,誤った解釈をする者が現れ,ラフプレイの横行が出現している.また,ハンドボールでは,身体接触により相手の動きを止めることが良い防御とされ,ファールによって相手の動きを止めることが,試合中に非常に多く発生する,アンフェアな状態が続いている.ハンドボールの普及・発展のため,この現状の改善は急務である.ハンドボール経験のない一般観衆にも,身体接触が分かり易いものになる必要がある.他のゴール型球技におけるファールの扱いについて調査した結果,ハンドボールの競技規則はファール抑止力が弱いことが明らかとなった.この問題解決のために,安全な身体接触をファールと判定しないこと,身体接触によりプレイが中断した場合は規則違反と判定し,フリースローで再開すること,危険な身体接触をファールと判定し,それには必ず罰則を付加することが提案された。

(受付日:2019年8月28日,受理日:2019年10月17日)

14回男子U-18ヨーロッパハンドボール選手権分析(翻訳)

山本 達也(茨城県立石岡商業高等学校)

論文概要:本論文は,ヨーロッパハンドボール連盟(EHF)で紹介された「14th Men’s U18 European Handball Championship Qualitative Analysis」の翻訳である.本論文の筆者は,クロアチア女子U20代表チームのアシスタントコーチであるAnte Burger氏である.筆者はこの論文において,第14回男子U18ヨーロッパハンドボール選手権を分析し,様々な見解を述べている.本分析には,上位3チームのオフェンス・ディフェンス特徴やオフェンス戦術例などが紹介されている.

(受付日:2019年8月30日,受理日:2019年10月1日)

ハンドボール選手の体力研究〜実践研究のおもしろさ〜(日本ハンドボール学会第7回大会講演要旨)

田中 守(福岡大学)

本文より抜粋

私がハンドボール選手の体力に興味を持ったきっかけは3回あり,その都度,興味が大きく膨らんでいきました.大学からハンドボールを始めた私は,技能では及ばずとも体力(特に筋力と有酸素性持久力)では負けない身体づくりを意識しました.大学院修了後,福岡大学に赴任したあとは,関東・関西のエリートチームに学生の個人技能で劣っても体力では負けないチームづくりを前提にし,チーム戦術で勝負することを意識しました.その後,日本代表チームや2000年からスタートしたNTS(ナショナルトレーニングシステム)にスポーツ医科学委員として関わるようになり,世界に伍して戦うための体力づくりをさまざまに提案するようになりました.今回のテーマの趣旨は,ハンドボール選手の体力研究のレビューが中心ですが,現場からのさまざまな問題提起でもあります.その意味でも,興味の原点となった「体力研究の材料は現場に転がっている」ことから,実践研究のおもしろさというサブタイトルにしました…

ハンドボールにおける「アスリートセンタード・コーチング」とそれを実践できるコーチの育成(日本ハンドボール学会第7回大会シンポジウム要旨)

パネリスト:三輪 一義(琉球大学),岩原 文彦(日本体育大学),金高 宏文(鹿屋体育大学)
コーディネータ:藤本 元(筑波大学)

本文より抜粋

2013年4月に文部科学省はスポーツ指導者の資質向上のための有識者会議を設置しました.7月には報告書がまとめられ,コーチングの改善方法,およびコーチの資質能力向上方策が提言されました.この提言を受けたコーチングイノベーション事業の一つとして,日本スポーツ協会はアスリートを中心に据えたコーチング,アスリートセンタード・コーチングを実践できるコーチを育成するためのモデル・コア・カリキュラムを作成し,2019年4月からスポーツ指導者の資格制度の改定とともに実施することになりました.…今回のシンポジウムでは,これからの時代のコーチングについて見識の深いパネリストの皆さんをお招きして,ハンドボールを指導するコーチのアスリートセンタード・コーチングとはどういうことなのか,またそのようなコーチングを実践できるコーチの育成はどうあるべきかについて,ディスカッションしていきたいと思います.