ハンドボールにおけるディフェンスと対峙した際のジャンプシュート速度に関する研究:間合い,打点,体力との関係に着目して(原著論文)

明石 光史(大阪経済大学人間科学部)
西里 喜光((株)プロフェッショナルトレーナーズチーム)
前田 奎(京都先端科学大学教育開発センター)
松木 優也(京都先端科学大学健康医療学部健康スポーツ学科)

論文概要:本研究は,ハンドボールのディスタンスジャンプシュートにおいて,ディフェンス(DF)とシューターとの間合いがシュート速度と打点に及ぼす影響,およびDFとの間合いが近いときのシュート速度に影響を及ぼしている体力要素を明らかにし,体力トレーニングに役立つ知見を提供することである.対象者は20名の大学ハンドボール部男子選手(年齢:20.1±0.85歳,体重:73.1±8.37kg,身長:177.2±5.54cm)である.6m,7m,8mにDFを配置し,9mからのジャンプシュート速度と,その時の間合いと打点を画像分析から抽出した.さらに,投能力としてのステップシュート速度と,体力としての20mスプリント(20SP),カウンタームーブメントジャンプ(CMJH),メディシンボール後方投げ(MB),ベンチプレス1RMBP1RM)及びスクワット1RMSQ1RM)の測定を行った.重回帰分析の結果,DFとの間合いと打点は,ジャンプシュート速度に影響することが示された.また,シュート速度を低下させないためには少なくとも約1.5m以上の間合いが必要であると推測された.さらに,間合いが近いときのシュート速度は,20SPCMJHBPRMで約30%を推定することができた.DFとの間合いが近い状況でも,高いシュート速度を発揮するためには,上肢及び下肢における高負荷の筋力トレーニングが必要であることが示唆された.

(受付日:2021525日,受理日:2021913日)

ハンドボールにおけるトレーニング様式別の負荷定量評価(原著論文)

竹上 綾香(筑波大学大学院人間総合科学研究科)
可西 泰修(筑波大学医学医療系)
眞下 苑子(大阪電気通信大学共通教育機構)
吉田 成仁(帝京平成大学ヒューマンケア学部)
白木 仁(筑波大学体育系)

論文概要:本研究の目的は,ハンドボールのトレーニングにおける負荷・強度の特徴を明らかにすることであった.大学1部リーグに所属する女子ハンドボール選手12名を被験者として,GPSデバイスと心拍計を用いてハンドボールの5つのトレーニング様式(一般的練習,技術練習,戦術的個人練習,戦術的グループ練習,試合的練習)の負荷・強度の定量評価と比較を行った.本研究で得られた結果は以下の3点である.(1)総合的な負荷・強度(移動距離,Player Load,心拍負荷,平均心拍数,一分間あたりの移動距離,一分間あたりのPlayer Load,一分間あたりの心拍負荷)について,試合的練習と戦術的個人練習は他のトレーニング様式と比較して高い負荷と強度を示し,一般的練習や技術練習,戦術的グループ練習では低い負荷と強度を示した.(2)高強度動作頻度について,合計動作頻度において戦術的グループ練習が一般的練習に次いで低い値を示した.動作方向別にみると,前方動作頻度において試合的練習と技術練習が,横方向動作頻度において戦術的個人練習が,ジャンプ頻度において技術練習が他のトレーニング様式と比較して高い値を示した.(3)最大強度について,最大速度,最大心拍数,最大加速度,最大減速度は試合的練習と戦術的個人練習で高い値を示した.特に試合的練習と戦術的個人練習では最大加速度に対してより大きな最大減速度が観察された.以上の結果はトレーニング様式毎に異なる負荷・強度特性を有していることを示しており,トレーニングの負荷特性を理解し,チームの適切なトレーニング計画や傷害予防のためのコンディショニングのための新たな情報を提供すると考えられる.

(受付日:2021106日,受理日:2021121日)

ハンドボール男子日本代表におけるスポーツアナリストの活動事例:アジア選手権を対象に(実践研究)

永野 翔大(東海学園大学スポーツ健康科学部)

論文概要:公益財団法人日本ハンドボール協会(以下,JHAと略す)は,国際競技力向上のための取り組みとして,強化をサポートする情報分析スタッフの専任化を掲げており,重点施策としてゲーム分析,テクニカル分析などを行うスポーツアナリストの養成に努めることを挙げている.しかし,JHAはスポーツアナリストの養成に向けた具体的な活動を行えておらず,言語化された指導書もない.スポーツアナリストを養成するためには,スポーツアナリストがもつ活動上のコツやノウハウである暗黙知を言語化された形式知へと変換させ,次世代における働き手の発展に寄与できる知見として収集することが必要だと考えられる.本研究の目的は,ハンドボール男子日本代表チームにおいてスポーツアナリストの経験を有する筆者が実践した情報分析活動とそこから得た学びを事例的に報告することで,ハンドボール競技におけるスポーツアナリスト養成プログラムの構築に有用となる知見を提供することだった.この目的を達成するために,国際大会に向けた強化合宿および国際大会における筆者の学びに焦点を当てて考察した結果,以下の学びを得た.強化合宿中に得られた学びは,「最新の情報を収集することが求められる」「入手困難な情報があることも想定し,情報分析活動の計画を立てることが大切である」「監督の分析ルールの理解に努めることが大切である」「情報の取り扱いには十分に注意を払うことが大切である」の4点,国際大会中に得られた学びは,「試合中に監督から数値データよりもプレーの映像データを求められる可能性がある」「自身を取り巻く資源を理解し,それに応じた情報分析活動を行うことが大切である」「チームに帯同していないサポートスタッフを組み込んだ新たな情報分析活動の充実が必要である」「モチベーションビデオの作成には大会戦略的な視点が必要である」の4点だった.

(受付日:2021525日,受理日:2021913日)

ハンドボール競技における攻撃突破局面の反則方向を考慮した審判観察位置の考察:Why do you stay there?(実践研究)

黒木 秀吾(東京都ハンドボール協会)

論文概要:本研究は,ハンドボール審判の理由を持った位置取り及び具体的な審判指導の活性化を促すため,一つの方法案として攻撃突破局面における死角を生じない審判観察位置を具体的に考察した.押すなどの反則行為が行われる方向を反則方向,審判の予測を,長期的予測中期的予測短期的予測3つに区分し,それぞれ定義づけた.結果は以下のとおりである。反則方向に対し平行または延長線上の位置で観察すると,プレーヤーの陰が死角となり適切な判定が困難になる.一方,反則方向をより垂直に観察できる位置取りを行うことで死角を生じず適切な判定が可能になる.また,死角を生じない位置取りを行うため,攻守のプレーヤーが接触し反則発生確率が高まる攻撃突破局面の地域を予測する中期的予測を行うことが重要である.最後に,観察死角が発生しやすい局面とその解決例を記載した.

(受付日:2021915日,受理日:20211025日)

大学男子ハンドボール選手におけるオフェンスプレーの観察力の評価(研究資料)

伊東 裕希(朝日大学保健医療学部)
會田 宏(筑波大学体育系)

論文概要:本研究の目的は,伊東ほか(2017)が明らかにした指導者の着眼点をもとに,大学男子ハンドボール選手のオフェンスプレーの観察力を評価することを目的とした.関東・東海・関西・九州の各学生ハンドボール連盟に所属する男子選手に,年齢カテゴリー,攻撃および防御チーム,攻撃の開始から完了までのいずれもが異なる4シーンを観察させ,シーンごとにオフェンスの印象をできるだけ多く記述させた.その対象者の記述内容を短文化し,シーンごとに書き出し,伊東ほか(2017)で明らかにした卓越した指導者の着眼点が,対象者の記述内容に含まれているかどうか確認した.含まれていればその内容に1点を与え,得点化した.対象者のオフェンスプレーの観察得点と,現在の競技成績との関係性について明らかにするために一元配置の分散分析を用いて分析した結果,以下のことがわかった.本研究の対象者である大学男子ハンドボール選手は,「ディフェンス」や「ポストプレー ヤー」などのプレーヤーに関する着眼点において高い回答数と回答率が見られ,「数的関係」や「コート」などのプレー内容に関する着眼点において低い回答数と回答率が見られた.また,観察得点の合計において,競技成績が高いほど得点が高い傾向にあり,「他の選択肢」や「プレーの意味」などのプレーの意図や意味に迫る着眼点においては,観察得点が低かった.

(受付日:20201026日,受理日20201214日)

ハンドボールの6-0防御に対する攻撃におけるバックコートプレーヤーのワイドエリア侵入プレーの有効性(研究資料)

松木 優也(京都先端科学大学健康医療学部健康スポーツ学科)
銘苅 淳(関西学院大学)
前田 奎(京都先端科学大学教育開発センター)
明石 光史(大阪経済大学人間科学部)

論文概要:本研究の目的は,EHF Champions LeagueECL)とJapan Handball LeagueJHL)のゲームを対象に,6-0防御に対するバックコートプレーヤーによるワイドエリアへの侵入プレーの有効性および両リーグにおける特徴を明らかにすることであった.ECLJHL,それぞれ10試合ずつ計20試合1180シーンを対象に記述的ゲームパフォーマンス分析を行った結果,以下のことが明らかになった.(1)ワイドエリアへの侵入の有無による比較では,ECLJHLとも,攻撃成功率,シュート成功率において,侵入ありが侵入なしよりも有意に高かった.この結果から,ワイドエリア侵入プレーは,6-0防御に対して有効なプレーであると考えられた.JHLにおいては,ワイドエリア侵入プレーをすることがミスの減少やシュート達成率の向上に貢献すると考えられた.(2)ECLにおける攻撃の特徴は,ワイドエリア侵入プレーによって効果的な場面でのDistance Shotsが試行されていること,アシストプレーヤーのワイドエリア侵入プレーによってWing ShotsLine Shotsが多く生み出されていることである.(3)JHLにおける攻撃の特徴は,最終ボール保持者のみがワイドエリアに侵入してDistance Shotsを打つ生起率が高いことである.ワイドエリア侵入プレーを伴わない場合,Wing Shotsを生み出すことが困難である可能性が示唆された.

(受付日:2021727日,受理日20211012日)

新型コロナウィルス感染症(COVID-19)発生時のコート上のトレーニング:課題と戦略(翻訳)

山本 達也(茨城県立土浦第三高等学校)

論文概要:本論文は,ヨーロッパハンドボール連盟(EHF)で紹介された「On-court training in times of COVID-19: challenges and strategies」の翻訳である.本論文の筆者は,ポルト大学(ポルトガル)の准教授であり,EHFの大学ハンドボール教師グループのメンバーであるLuisa Estriga(博士)である.筆者は,この論文において,新型コロナウィルス感染症(COVID-19)が蔓延している中でのトレーニングを行う際の注意点や練習メニューの組み立て方,具体的な練習を紹介している.紹介されている具体的な練習に関して,「eurohandball.com」にて様々な動画(On-court training in times of COVID-19 )が挙げられている.

(受付日:2021831日,受理日:2021929日)

レフェリーの客観的評価を目指して:評価基準作成の可能性(問題提起)

清水 宣雄(国際武道大学)

論文概要:本研究の目的は,レフェリーの客観的評価法の確立である.今回は,判定の実態調査を基に,客観的審判評価基準の可能性を示した.先行研究では,競技規則自体に,ファールの抑止力が弱く,レフェリーが積極的に罰則の付加を判定しない限り,ファールの発生を抑止できないという問題点を明らかにした.レフェリーのレベルアップのために,客観的評価法の確立が重要である.今回は,判定の実態調査を基に,Infringement数・Foul数の全体の平均値からポアソン分布を求め,客観的評価基準作成の可能性を示した.累積ポアソン分布によって有意差を求めると,Infringement数では,13回よりも少なければ,5%水準で有意に少なく,29回以上であれば,5%水準で有意に多いということが分かった.Foul数では,2回よりも少なければ,5%水準で有意に少なく,10回以上であれば,5%水準で有意に多いということが分かった.累積ポアソン分布グラフを活用することによって,実際の判定数が全体のどの辺に位置するのかは判明するが,判定数で優劣を判断することは困難である.プレイの中断を少なくする観点からすれば,Infringement数は少ない方が良いと考えられるが,罰則を厳格に適用する観点からすれば,Foul数は多い方が良いとも考えられる.そもそも,ポアソン分布を算出するための数値を,どの様に設定するかを検討する必要がある.今回までの研究では,未だ活用はしていないが,データ収集にあたり,毎回,レフェリーの出来栄えを,観察者が五段階で評価しており,両チームの監督からも評価を得ている.これらの数値との関係を検討することで,レフェリーの客観的評価基準を作成できるのではないかと考えている.

(受付日:2021831日,受理日:2021929日)