原著論文)

放送用ハンドボール競技映像における画像処理技術による攻撃特徴の分析

増田健志,内木正紘,澤野弘明(愛知工業大学)

ハンドボール競技では,試合を優位に進めるためにアナリストが相手チームを分析する.特に選手の動きを分析する際,選手の動きを記録する場合があり,アナリストに時間的負担がかかる.本研究では,アナリストの分析にかかる時間的負担の軽減を目的として,放送用ハンドボール競技映像から画像処理技術を用いて選手の移動軌跡を半自動的に分析する手法を提案し,その分析結果から攻撃特徴を考察した.筆者らの先行研究である,カメラ向き判定手法と選手の位置·移動軌跡表示手法を用いて,カメラ向きが変化する回数から「攻撃回数」の計測,カメラ向きが一定である時刻から「ボール保持率」の推定,選手の位置·移動軌跡に対して,分析したい選手をアナリストに選択させることでコート上面図に「選手の位置」,「選手の移動軌跡」を表示した.提案手法を用いて,2019 年の女子選手権大会のロシア対中国の試合映像を対象に「攻撃回数」,「ボール保持率」の推定手法を評価した結果,攻撃回数103回に対して正推定98回,ボール保持率はロシアのボール保持率31.9%に対して推定結果は37.1%となり,誤差が5.2%となった.また,同一の試合映像に対して,シューターのシュートまでの移動軌跡の特徴をチーム毎に考察した結果,得点率が高かったロシアでは,シューターは横や斜めの移動を組み合わせてシュートコースを確保している結果となった.得点率の低かった中国では,ロシアのディフェンスを突破することが難しく,シュートコースを確保できずに,ロングシュートを打つ場合が確認された.また,中国の得点時の攻撃に着目した結果,シューターは横や斜めの移動を組み合わせてシュートコースを確保していることが確認された.

 

研究資料)

小学ハンドボール選手における外傷·障害発生の実態

眞下苑子(大阪電気通信大学),山田永子(筑波大学),宝官孝明(大阪電気通信大学),竹上綾香(立教大学),関根悠太(帝京平成大学),吉田成仁(帝京平成大学)

論文概要

ハンドボールの外傷·障害調査は,国内外で行われているものの,主に成人選手または青年期の中でも高校ハンドボール選手を対象とした調査が多く,それより低い年代のハンドボール選手を対象とした調査は極めて少ない.そこで,本研究は,日本の小学ハンドボール選手における外傷·障害発生の実態を明らかにすることを目的とし,質問紙調査を実施した.対象は,2022 年度に開催された全国小学生ハンドボール大会に出場した計 84 人の選手とした.自己報告式の質問紙を用いて,基本項目と外傷·障害に関する項目を調査した.外傷·障害の定義は,「ハンドボールの試合または練習によって発生し,次に予定されている試合または練習の全てに参加できなくなったもの(Time-loss injury)」とした.その結果,過去1年以内に外傷·障害を受傷した対象者の割合は38.1%であった.主要な外傷・障害発生部位は,足関節(n = 13, 36.1%)と指(n = 9, 25.0%)であり,主な外傷・障害の種類は捻挫(n = 14, 38.9%)と骨折(n = 7, 19.4%)であった.また,過去1年以内に外傷·障害を受傷した選手は,受傷していない選手と比較して,学年,年齢,身長が高かった.本研究により,小学ハンドボール選手には足関節と指を中心とした外傷·障害予防の実践が必要であることが示された.また,外傷·障害を受傷した選手は,受傷していない選手に比べて学年·年齢·身長が高かったことから,これらの項目が外傷·障害の危険因子となるか今後検討する必要がある.

 

その他 · 問題提起)

レフェリーの客観的評価を目指して:評価システム構築の提案

清水宣雄(ウェルネススポーツ鴨川)

本研究の目的は,レフェリーの客観的評価基準の確立である.今回は,レフェリーが下した判定数から主観的評価の予測を試み,評価システム構築を提案した.レフェリーのレベルアップは急務であると言われ続けて久しい.筆者は先行研究において,競技規則の問題点を明らかにし,プレイを可能な限り継続させ,罰則の基準を分かり易くする考え方を提案した.さらに,判定の実態を調査し,評価基準作成の可能性を示して,身体接触に対する判定の目標値を提案した.レフェリーを評価する客観的評価基準が確立することによって,レフェリー全体のレベルアップに貢献できるものと考える.先ず,レフェリーの判定によって試合様相が決定し,それに評価が下され,Infringement数·Foul率·Turn Over数がOutputされるというモデルを考えた.

次に,目的変数を観察者(元国際レフェリー)の主観的評価,説明変数をレフェリーが判定したInfringement数·Foul率·Turn Over数として重回帰分析を行った.その結果,重相関係数が0.2953,寄与率が0.0870であった.重回帰式の精度は低いものであった.ダービンワトソン比は1.6318であった.実測値と予測値の間に相関は見られず,主観的評価は想像以上に主観性が高いものであった.主観的評価の判定基準が明確になり,より客観性が高まれば,より実用的な重回帰式が得られると考えられる.最新のレフェリー評価票はルーブリック評価の手法が導入され,客観性が向上している.しかし,評価票の課題は以下の三点である。

①評価する人員の確保

②レフェリー本人による客観的な自己評価

③判定数の目標数値の設定

客観的評価システムの活用によって,簡易的な自己評価·判定数目標値の設定が可能となる.

筆者が提案する,客観的評価システムは以下の二段階である.

①データ収集

大会毎に最低一試合以上のデータを収集し,基本となる平均値を求めるためのデータとする.

②評価関数・判定目標数の設定

全体の平均値からポアソン分布を用いて,判定目標値を設定する.

客観性が向上した評価票を用いて,重回帰式を求め,判定数を入力するだけで評価が下される,客観的評価システムを構築する.

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