高校選抜大会優勝女子ハンドボール選手の形態および運動能力(原著論文)

鈴木康信(福岡教育大学大学院教育学研究科)
池田 修(福岡教育大学保健体育講座)
池田まり子(UniLodge Australia Pty Ltd.)

論文概要:本研究は高校選抜大会優勝女子ハンドボール選手の形態および運動能力を測定し,その特徴を競技成績下位チームや他の研究報告との比較により明らかにすることを目的にし,以下の結果を得た.【競技レベルによる比較結果】高校選抜大会優勝女子ハンドボール選手は身長,体重,LBMで競技成績下位チームと差がなく,体脂肪率は高い傾向を示した.30m走,30m方向変換走,反復横とびは競技成績下位チームより有意に高い成績を示し,立ち幅とび,推定最大酸素摂取量の成績は競技成績下位チームより高い傾向を示した.【他の研究報告との比較結果】高校選抜大会優勝女子ハンドボール選手は身長,体重,LBMで大学女子チーム,日本代表女子チームおよびトップレベル高校女子バレーボールチーム,バスケットボールチームを下回り,体脂肪率は大学女子チーム,日本代表女子チームおよびトップレベル高校女子バレーボールチーム,バスケットボールチームを上回った.30m走,立ち幅とびは日本代表女子チームより高い成績を示した.推定最大酸素摂取量は日本代表女子チームと同値を示したが,トップレベル高校女子バスケットボールチームより低い値を示した.
(受付日:2013年8月28日,受理日:2013年10月18日)

ハンドボール日本代表男子チームにおける攻撃の現状と課題:同一監督が指揮した2008年から2012年までの公式試合の分析から(原著論文)

和田 拓(青山学院初等部)
藤本 元(筑波大学体育系)
山田永子(筑波大学体育系)
會田 宏(筑波大学体育系)

論文概要:本研究では,同一監督が指揮した北京オリンピック世界最終予選(2008年1月)からロンドンオリンピック世界最終予選(2012年4月)までの日本代表男子チーム公式試合(25試合)を対象として,日本代表男子チームの攻撃における現状と課題を明らかにすることを目的とした.ゲームパフォーマンスの記述分析および統計的手法(t検定,一元配置の分散分析および多重比較,カイ二乗検定および残差分析)を用いて検討した結果,日本の攻撃はアジア諸国に対してはポストシュートを増やすための戦術的な準備など3つの課題を,韓国に対してはシュート成功率の向上など5つの課題を,ヨーロッパ諸国に対しては速攻におけるミスからの失点を減少させることなど4つの課題を有していることが明らかとなった.
(受付日:2013年9月10日,受理日:2013年11月1日)

女子ハンドボール競技におけるバックコートプレーヤーのシュートプレー:世界トップレベルと日本選手の比較検討(原著論文)

山田永子(筑波大学体育系)
ネメシュ ローランド(筑波大学体育系)
藤本 元(筑波大学体育系)

論文概要:本研究の目的は,世界トップレベルの右利きバックコートプレーヤーが実践しているシュートプレーの様相を明らかにすること,それと比較しながら,女子日本代表の右利きバックコートプレーヤーが実践しているシュートプレーの問題点や改善点を検討することであった.2011年~2012年の女子国際大会で優秀な成績を収めたチームの得点源のプレーヤー3名(ALSTAD:ノルウェー,POPOVIC:モンテネグロ,PENEZIC:クロアチア)と日本の女子トップレベルプレーヤー2名(東濱,植垣)を対象に,ミドルエリア,ロングエリアにおけるシュートプレーを分析した.その結果,世界トップレベルのプレーヤーは,それぞれが自己の形態や個性を活かして様々なシュートプレーを実践していたことが分かった.一方,日本女子2名は,世界トップレベルに比べて,防御者にブロックされる生起率とGKに正しく反応される生起率が高かった.日本女子2名は,日本人と同様の体格であるALSTAD(172cm)のように,ボール保持中の歩数を少なくし,上半身を非利き腕側に傾斜させてシュートするなどの工夫が必要であると考えられた..
(受付日:2013年9月10日,受理日:2013年11月5日)

ハンドボール競技における定量的・定性的ゲーム分析のトレーニング活動への応用:T大学の取り組みを例に(実践研究)

田村修治(東海大学体育学部)

論文概要:本研究では,2011年度のT大学を対象に,ゲームの定量的、定性的分析を活用しながら,立案したゲーム構想が実現できているかどうかを評価し,トレーニング内容と方法を再検討した過程を事例として示した.また,その事例を検討することを通して,トレーニング及びコーチング活動の方向性を示すことを試みた.具体的には,監督はどのようなゲーム構想を持ってチーム作りを開始し,どのように実現化させていったのか,主要大会の分析を通してどのように現状分析し,新たな課題を明確にしていったのか,さらに,トレーニング内容と方法をどのように修正し,成果を評価していったのか,といった問題について詳解した.一連のトレーニング過程を振り返り,本事例を以下のように総括した.(1)トレーニング過程において,ゲームの定量的、定性的分析を用いることは,ゲーム構想をより具体化し,監督・選手がイメージを共有する上で有効である.(2)高身長でない選手の可能性を開拓するために,攻撃においてはボールを持たない動きに対する意識,瞬間的な「ずれ」を活用する意識,コートを広く使う意識が重要である.防御においては,予測的で機動的な積極的防御の意識,防御プレーヤーが連動する意識が重要である.(3)設定したゲームパフォーマンスの数値目標は,関東学生1部リーグの上位に進出するためには,妥当な数値である.
(受付日:2013年9月18日,受理日:2013年11月1日)

ハンドボール競技における積極的防御活動を養成する導入プログラムの開発とその効果の検証:児童期の選手を対象とした指導実践を手がかりに(実践研究)

田島聖子(琉球大学大学院教育学研究科保健体育専修)
三輪一義(琉球大学教育学部)

論文概要:本研究では児童期を対象にハンドボール競技における積極的防御活動の導入プログラムを開発し,その効果を実践的に検証することを目的とした.対象者は沖縄県M小学校ハンドボール部に所属する男女選手28名であった.プログラムの実施にあたっては,選手の上達過程を考慮して当初の予定を柔軟に変更させていった.積極的防御活動を養成する導入プログラムを14時間実施し,導入プログラム中及び後に行ったアンケート調査,プログラム導入前後のゲームパフォーマンス分析の結果,以下の2点が明らかになった.(1)導入プログラムの進行に伴い,意識的に積極的防御活動を行う選手が増え,成功体験も増えていった.(2)開発した導入プログラムは,特に女子において成果が見られ,その成果は「攻撃者のリズムを崩す」ことに現れた.これらの結果から,積極的防御活動を養成するために実践した導入プログラムと,選手の上達過程を考慮しながら柔軟に練習内容を変更させていった実施方法は,児童期の選手に対して一定の効果を持っていることが明らかになった.
(受付日:2013年8月31日,受理日:2013年11月5日)

ハンドボール競技における審判初心者と熟練者の活動比較(研究資料)

坂井智明(日本ウェルネススポーツ大学スポーツプロモーション学部)

論文概要:本研究では,審判初心者と熟練者における公式試合中の活動状況の違いについて検証し,審判員育成システムの確立へと導く基礎資料を得ることを目的とした.対象は,日本ハンドボール協会上級審判員(男性10名)と学生審判員(男性19名)であった.公式試合中の上級審判員と学生審判員の心拍数,運動強度,移動距離を比較した結果,上級審判員が学生審判員に比べて高い活動状況で試合を判定していることが明らかになった.学生審判員は,的確な判定をするためボールとの距離を一定に保つなど審判に必要な動き方を理解し,審判員としての経験積むことで,審判員としてのレベルの向上が図れることが示唆された.
(受付日:2013年6月14日,受理日:2013年8月26日)

機動力のある攻撃の構築:サイドプレーヤーとバックコートプレーヤーのポジションチェンジを伴うトレーニングエクササイズ(翻訳)

山本達也(茨城県立鹿島高等学校)

論文概要:本論文は,ヨーロッパハンドボール連盟(EHF)のウェブサイトに掲載されている論文「Building up mobile attack」の翻訳である.この論文の筆者は,EHF Lecturerの Zoltán Marczinka 氏である.筆者は,この論文において,機動力のある攻撃を構築するためのトレーニング方法を紹介しており,サイドプレーヤーとバックコートプレーヤーのポジションチェンジが重要だと考えている.トレーニングドリルは段階的に構成されており,動きの習得に焦点を当てている練習から実践的な練習まで幅広く取り上げられている.
(受付日:2013年8月29日,受理日:2013年10月12日)

ハンドボール日本代表女子選手における心理的特徴(日本ハンドボール学会第1回大会基調講演要旨)

樫塚正一(武庫川女子大学健康・スポーツ科学部)

本文より抜粋
ここでは黄(ファン)監督が指揮した日本代表女子チームの選手を対象に,彼女たちの心理的特徴を3つの調査から明らかにしようとしました.DIPCA.3(心理的競技能力テスト)を使った調査から,選手は競技意欲と協調性が非常に高かったことが分かりました.精神の安定,作戦能力,自信がもう少し伴えば,特に自信をもたせられるようなチーム作りができていたら,もっと良い成績が収められたかもしれません.アンケート調査から,選手たちは,黄監督に人としての魅力を感じていたこと,信頼感を持っていたこと,専門知識,言葉がけ,コーチングテクニックに全面的な信頼を置いていたことが分かりました.エゴグラムからは,黄監督は選手一人ひとりのパーソナリティを非常によく見抜き,選手の起用を上手に行ってチームを成長させていたことが分かりました….

サイドシュートを決めるコツ・阻止するコツ(日本ハンドボール学会第1回大会シンポジウム要旨)

パネリスト:橋本 行弘(元日本代表ゴールキーパー)・下川 真良(元日本代表サイドプレーヤー)
コーディネータ:會田 宏(筑波大学体育系)

本文より抜粋
【サイドシュートを決めるコツ(下川)】…跳び込む方向に関しては,よく「7mラインに向かって跳びなさい」と言われますけど,私は身長が低くて,手もそれほど長くなかったので,内側に跳び込むだけでは勝負できないと思っていました.ゴールキーパーの特徴,つまり,ジャンプする,前に出てくる,なかなか動かないなどの特徴に応じて,わざと垂直方向に跳んでみたり,真正面に向かって跳んで行ったりと,いろいろな使い分けをしながらサイドシュートを撃っていました.…角度が狭い時ほど,わざと垂直方向に跳んで,ゴールキーパーを伸び上がらせた瞬間に…ボールを1個分外して脇横を抜くんです.
【サイドシュートを止めるコツ(橋本)】…ゴールキーバーのポジショニングについて,指導者のみなさんは,通常,ゴールマウスの近目のポストを触ってから,シューターについて行きながら止めなさいと教えていると思います.この方法は間違っていないと思います.しかし,これだとシューターがシュートエリアの選択権を持つことになります.先ほどの仕掛けのように,遠目のエリアに立ってみると,シューターは近目が気になって中に跳び込むのをちゅうちょすると思います.というのも,あまり中に跳び込み過ぎると,近目がもっと広くなっても返し切れなくなる(近目を撃てなくなる)からです.シューターがシュートコースを決めるのではなくて,ゴールキーパーの立ち位置によって,撃たざるを得ないシュートエリアを作れば,ゴールキーパーの方が有利に立つことができるのです.