ハンドボールにおける1対1の突破阻止に関する動きのコツ:卓越した防御プレーヤーの語りを手がかりに(実践研究)
船木浩斗(筑波大学大学院人間総合科学研究科,中京大学スポーツ科学部)
會田 宏(筑波大学体育系)
論文概要:本研究では,国際レベルで活躍した防御プレーヤーの獲得した,1対1の突破阻止に関する動きのコツについてインタビュー調査し,ジュニア期の選手に対する指導やトレーニングの開発に役立つ知見を実践現場に提供することを目的とした.その結果,けん制の目的と方法,マークする選手の選択肢を減らす位置取りと構え,脚で付いていきながら腕ではじき出す方法,マークする選手がゼロストップしたときにフリースローを獲る方法,半身ずれたときの対応,ジュニア期の選手に対する指導についての6つを提示できた.また,これらの内容を考察した結果,1対1の場面を防御プレーヤーが有利に進めマークする攻撃プレーヤーの突破を阻止するためには,オフザボールとオンザボールにおいて,防御プレーヤーが攻撃プレーヤーの選択肢を減らしたり限定させたりするプレーを実践する必要があることが示唆された.
(受付日:2014年8月22日,受理日:2014年9月26日)
ハンドボール指導者の熟達化に関する事例研究:新たなチームを立ち上げ全国大会常連校に育てた若手指導者の語りを手がかりに(実践研究)
田代智紀(九州共立大学スポーツ学部)
會田 宏(筑波大学体育系)
論文概要:本研究では,高校の運動部活動において,チームの立ち上げから10年間,一貫して同じチームを指導し,全国大会常連校に導いた1名の若手指導者を対象に,指導者本人,本指導者とともにチーム作りに携わったコーチおよび本指導者から指導を受けた選手のそれぞれから得た指導の転機に関する語りを手がかりに,指導者の熟達化をもたらす要因について事例的に明らかにし,コーチングにおける指導力の向上に貢献できる知見を導くことを目的とした.主な結果は以下の通りである.(1)本研究で対象とした若手指導者は,情熱や理想を持って指導をスタートさせていたが,指導力のなさを実感し早い段階でつまずいた.しかし,他の指導者のアドバイスにより指導の転機を迎え,ハンドボールを学び直し,試行錯誤したことで指導者に必要な観察力や対応力を身につけた.(2)熟達化をもたらす要因として,指導者のつまずきとそれを克服する経験,ゲーム構想や基本戦術の明確化,他者からのアドバイス,自分自身のコーチングを振り返る省察が挙げられた.これらを通して戦術行動をシンプルにし,わかりやすく指導できるようになると考えられる.
(受付日:2014年9月2日,受理日:2014年10月31日)
ハンドボール競技における連続失点が勝敗に及ぼす影響(研究資料)
横山克人(東海大学体育学部競技スポーツ学科)
栗山雅倫(東海大学体育学部競技スポーツ学科)
田村修治(東海大学体育学部競技スポーツ学科)
論文概要:関東学生男子ハンドボール1部リーグ88試合を対象に連続失点と勝敗との関係を明らかにした結果,以下の知見が得られた.(1)連続失点は,試合結果に影響を及ぼす要因の一つである,(2)2連続失点は,一試合を通じて累積されることで、試合結果に影響を及ぼすと考えられる,(3)3連続失点の生起回数は,いずれの時間帯においても勝チームと負チームとの間に有意な差が見られたため,3連続失点を抑制することは,勝利するために重要であると考えられる.(4)4点以上の連続失点は,勝チームではほとんど見られない,(5)試合開始直後におけるロングシュートミス及び保持ミス,及び後半開始直後の保持ミスによる攻撃権の喪失は,連続失点の機会を創出してしまうことが示唆された.
(受付日:2014年9月27日,受理日:2014年10月25日)
男子ハンドボール競技における5対6の数的不利な状況での攻撃について:学生レベルと世界レベルとを比較して(研究資料)
藤本 元(筑波大学体育系)
山手就策(国際鍼灸専門学校)
ネメシュ ローランド(筑波大学体育系)
山田永子(筑波大学体育系)
論文概要:本研究では,男子ハンドボール競技における5対6の数的不利な状況での攻撃方法を日本の学生レベルと世界レベルとを比較することによって,日本に必要となる数的不利な状況での攻撃の考え方および方向性について検討することを目的とした.この目的を達成するために,学生レベルの17試合および世界レベルの11試合から,5対6の数的不利な状況での攻撃をそれぞれ120シーンおよび133シーン抽出し,分析を行った.その結果,(1)学生レベルは,速攻に対して消極的であり,セット攻撃ではクロスやポジションチェンジを用い防御を揺さぶりながら攻撃するものの,防御ラインに入り込めず,クロスからのロングシュートで完結することが多いこと,(2)世界レベルは,速攻で得点を狙い,セット攻撃では常に1対1を狙いながら防御にプレッシャーをかけることをベースに,前に詰めて来た防御の裏をつくポストへの入り込みなどを活用し,防御ラインを押し込みながらパラレルからのミドルシュートで完結することが多いことが明らかになった.以上の結果から,日本では数的不利な状況での攻撃において,ゴールに向かう積極性をもつこと,そしてその積極性をベースにポストへの入り込みなどの戦術的工夫やアイデアを活用する中で攻撃の成熟度を上げていくことが必要であると示唆された.
(受付日:2014年9月26日,受理日:2014年10月31日)
L&Tディフェンスフォーメーション:解説と具体例(翻訳)
山本達也(茨城県立石岡商業高等学校)
論文概要:本論文は,2012年のヨーロッパハンドボール連盟(EHF)主催のマスターコーチセミナーに紹介された論文「LT Defence Formation」の翻訳である.本論文の筆者は,EHFコーチのZoltan Cordas氏である.筆者は,この論文において,従来のディフェンスシステムが抱える問題点を解消する新たなディフェンスシステムであるL&Tディフェンスフォーメーションを紹介している.本論文では,L&Tディフェンスフォーメーションは5+1ディフェンスに似ているが,いくつかの明確な違いがあると述べられている.また,それぞれのディフェンスポジションにおける動き方や注意点,具体的な場面ごとの守り方などが詳細に書かれている.
(受付日:2014年9月28日,受理日:2014年11月2日)
国際コーチングコースにおけるハンドボールコーチ養成プログラム(報告)
井上元輝(ハンガリー体育大学,筑波大学人間総合科学研究科)
論文概要:ICC(International Coaching Course,国際コーチングコース)は,IOC(International Olympic Committee,国際オリンピック委員会)のオリンピック・ソリダリティープログラムの支援を受けて,世界中のコーチを育てることを目的とした3ヶ月間の集中的なコースである.1971年からの開講以来85カ国以上から,約1,500人が同コースを受講し修了している.ICCは,主に若手コーチたちに,英語で理論的,実践的,体系的な講義・実技講習を提供している.コースのプログラムはスポーツ科学に関する共通科目の講義122時間と専門スポーツ種目の講習(講義・実技)180時間によって構成されている.筆者は,2014年3月17日から6月6日まで,ハンガリーのセンメルウェイス大学で開講されたICCのハンドボールコースを受講する機会を得て,修了証書を取得した.本稿では,ICCにおける共通科目およびハンドボールの専門種目に関する講習内容,特にトレーニングの捉え方,競技レベルに応じた技術・戦術トレーニングの方法,技術の体系について報告するとともに,受講した感想を述べたい.
(受付日:2014年9月27日,受理日:2014年11月1日)
日本ハンドボール学会が期待されていること(日本ハンドボール学会第2回大会基調講演要旨)
平岡秀雄(日本ハンドボール学会副会長)
本文より抜粋
日本ハンドボール学会では,ハンドボールに関わる知の提供を目指し,まずは研究の方向性を明確にして,他の領域ではまねのできない独自の研究を進めていく必要があると思います.…私の考える独自の研究とは,指導者でないとできない研究です.直面する課題を解決するために,指導者はどのように練習内容を工夫し実践したのか,選手はどのように技術の発揮方法を工夫し実践したのかを明らかにする縦断的な研究です.例えばある選手のシュート成功率を上げようとしたときに,何を,どのような方法で,どれくらいの期間教えて,どんなふうに変わったかを実践報告するのです.そのような実践報告をできるだけたくさん集めて,いろいろなグループに分けていくと,例えば,シュートの指導にはこういったタイプとこういったタイブがあると分かってきて,現場からの報告を通して指導理論が生まれていきます.
未来のハンドボールを担う子どもたちに,私たちは何をどのように教えたらよいのか(日本ハンドボール学会第2回大会シンポジウム要旨)
パネリスト:古橋幹夫(小松市立高等学校)・ネメシュ ローランド(筑波大学体育系)
コーディネータ:藤本 元(筑波大学体育系)
本文より抜粋
【高校年代における個人戦術力を高めるトレーニング(古橋)】高校卒業後も通用する,個人としての武器を持たせたいと考えています.フェイントとシュートの2つが主ですけれども,きちんと高校の間に身につけさせたいです.効率のよく成長させるために,まず技術だけを練習します.…ミスしたときはここが悪い,あそこが悪いと,ミスの原因を技術で解決できるようにアドバイスします.ミスと本人が分かっていれば別に何も言いません.ミスがない,きれいな練習は全く意味がないと思います.ミスが出てきて,これをどうする,あれをどうすると考える中で次の課題が出てきます.技術を細かく分析して,早くうまくできるようにさせたいと練習では考えています.
【ハンガリーにおける一貫指導(ネメシュ)】ハンガリーの一貫指導の内容は,コーディネーション,フィジカル,技術,戦術,メンタル,人格形成に分けられています.基本はコーディネーションとフィジカルです.各年齢で課題が変わります.高校生年代でボールの投げ方を教えたり,フェイントの基本を教えたりはしません.15歳ではもう遅いのです.ハンガリーでは6メートルの中のノーマークシュートには,プッシュシュート,フォーリングシュート,ジャンプインなどいくつかの種類があり,それらの技術を身につけさせ,キーパーと駆け引きをすることを14歳までに覚えさせないといけないと考えているのです.14歳を過ぎると,練習してももう遅くて,代表チームでも試合でノーマークシュートを外す選手が決まっています….