男⼦ハンドボール競技における防御者による攻撃⾏動の中断が防御結果に及ぼす影響(原著論文)

田中 圭(湧永製薬株式会社)
小俣 貴洋(筑波大学大学院人間総合科学研究科)
中山 紗織(日本体育大学総合スポーツ科学研究センター)
會田 宏(筑波大学体育系)

論文概要:本研究では,学生,日本,世界レベルの男子の公式戦を標本として,数的同数時の組織化された攻撃に対する防御者による攻撃中断の実態とそれが防御結果に及ぼす影響を,記述的ゲームパフォーマンス分析を用いて明らかにした.得られた主な結果は以下の3点であった.(1)防御者が攻撃を中断する頻度は,いずれのレベルにおいても,中断しない頻度よりも少ないが,世界では学生や日本に比べて,防御者による攻撃中断が積極的に試みられ,それは試合終盤に多い.(2)攻撃行動を中断させる防御プレーにおいて各レベルに共通する特徴としては,フリースローラインの内側に入り込み,防御との均衡を打破しようとするセンターに対して,2枚目もしくは3枚目の防御者が1人で,ホールディングを用いてゴール正面で行われることが挙げられる.(3)攻撃行動を中断させる防御プレーが防御結果に及ぼす影響は競技レベルによって異なり,学生では防御失敗に,日本では防御成功に繋がり,世界では防御成否に影響を及ぼさない.また,いずれのレベルにおいてもシュート達成の阻止に繋がるわけではない.

(受付日:2020年8月24日,受理日:2020年11月9日)

ハンドボールにおける2対2突破時のピヴォットプレイヤーのスクリーンのコツに関する事例研究:国際レベルで活躍したピヴォットプレイヤーの語りを手がかりに(実践研究)

富田 恭介(中部大学人間力創成総合教育センター)
井上 元輝(朝日大学保健医療学部)
山下 純平(愛知教育大学保健体育講座)

論文概要:本研究では,国際レベルで活躍した2人のピヴォットプレイヤーにインタビュー調査を行い,スクリーンの動きのコツについて明らかにし,ピヴォットプレイヤーの指導に役立つ知見を実践現場に提供することを目的とした.その結果,スクリーンプレイにおけるスクリーンの方法,味方とのコンビネーションの考え方,大型相手ディフェンダーに対してピヴォットプレイヤーがスクリーンによってパスを受けられる状態をつくることの効果についての3つを提示できた.また,これらの内容を考察した結果,ピヴォットプレイヤーは「瞬間的なスクリーン」を大型ディフェンダーに実行し,自分の足元にバックプレイヤーがパスを出しやすいスペースをつくることができる姿勢とバウンドパスなどに対応できるキャッチングを身につける必要があること,味方バックプレイヤーそれぞれのシュート,パス,フェイントに関する特徴を把握し,それを生かすことができるスクリーンを習得することで,味方バックプレイヤーにシュートチャンスを与えたり,自らの得点の機会を得られるようになること,スクリーンをしかけるときには,まず味方バックプレイヤーにシュートチャンスを,その次に自らのシュートチャンスを生み出そうとすることを志向することが重要であることが示唆された.

(受付日:2020年8月17日,受理日:2020年11月2日)

大学生男子ハンドボール競技者を対象とした方向転換能力の検討(研究資料)

勝又健太(順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科博士後期課程)
町田修一(順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科)
吉村雅文(順天堂大学スポーツ健康科学部)
青木和浩(順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科)

論文概要:本研究の目的は,男性の大学ハンドボール選手の方向転換(COD)能力を,競技レベルと選手のポジションによる違いから調査することであった.41名の男子大学生ハンドボール選手がこの研究に参加し,リーグ(1部・2部)およびポジション(Back,Wing,Pivot,Goalkeeper)によって分類された.COD能力を評価するために,ジグザグテスト(45度,90度,および135度)を行うとともに,スピード比(ジグザグ走速度/20m直線走速度)とCOD deficit(ジグザグテスト時間-20mスプリントタイム)を算出した.さらにフィールドテスト(20mスプリント,CMJ,立三段跳)も実施した.主な結果として,ジグザグ走タイム(45度,90度,135度),COD deficit(45度)において競技レベル間に有意差が見られた(p<0.05).また,1部と2部の参加した選手間には,20m走タイム,CMJ跳躍高,および立三段跳の跳躍距離に有意な差があった(p<0.05).ポジション別の比較ではジグザグ走45度タイム,ジグザグ走90度タイム,10m区間タイム,20m走タイムに有意な差が認められた.これらの結果から,リーグによる競技レベル間の方向転換能力には差がなく,競技レベルにおけるスプリント能力の差がジグザグ走タイムにも強く影響与えていることが明らかになった.

(受付日:2020年1月6日,受理日:2020年3月14日)

男子ハンドボール競技における世界トップレベルのバックコートプレーヤーのシュートプレーの特徴:低身長プレーヤーと高身長プレーヤーとを比較して(研究資料)

吉兼 練(日本女子体育大学体育学部)
徳田 新之介(豊田合成ブルーファルコン)
小俣 貴洋(筑波大学大学院人間総合科学研究科)
笹倉 清則(日本女子体育大学体育学部)
會田 宏(筑波大学体育系)

論文概要:本研究の目的は,世界トップレベルにおける低身長と高身長のバックコートプレーヤー3名ずつを対象に,公式戦におけるシュートプレーを記述的に分析し,それぞれのミドル・ロングシュートプレーの特徴を明らかにした.得られた主な結果は以下の2点であった。(1)低身長プレーヤーは,助走中にドリブルやフェイントを用いて,フリースローライン内に侵入し,ディフェンダーのシューブロックの斜め横または横から,クイックのタイミングでシュートを打つプレーが多いこと,ゴールキーパーの体に近いコースへ打つ高度なテクニックを駆使していることなどの特徴を有している.(2)高身長プレーヤーは,助走中のキャッチからシュートまでの過程とシュートプレーをシンプルにし,フリースローラインの外側から,ディフェンダーのシュートブロックの上から,ノーマルのタイミングで,流しのコースにシュートを打つプレーが多いことなどの特徴を有している.これらの結果から,国際レベルでは低身長に分類される日本人バックコートプレーヤーは,ディフェンダーを揺さぶるプレー,スタンディングシュート,ゴールキーパーの体に近いコースへのミドル・ロングシュートを習得する必要があると提案できる.

(受付日:2020年3月19日,受理日:2020年5月10日)

試合における大学女子ハンドボール選手のジャンプシュート動作の3次元分析(研究資料)

鈴木 雄大(青森県スポーツ科学センター)
辻 昇一(日本体育大学)
阿江 通良(日本体育大学)

論文概要:本研究の目的は,試合における大学女子ハンドボール選手のジャンプシュート動作を3次元動作分析し,得られたデータから平均動作モデルを作成して,その動作の特徴を明らかにするとともに,育成年代の女子選手のための指導に役立つ基礎的知見を得ることであった.本研究の結果および考察により得られた知見をまとめると,以下のようになろう.(1)身体各部の近位から遠位への最大速度発生タイミングの位相ずれが肩関節と肘関節では明確にみられず,運動連鎖の法則に従わっているとは必ずしも言えなかった.(2)ジャンプシュート動作におけるボールに加えられた力およびパワーは,離地後に体幹の前方回転の開始から右肩の最大外旋時あたりで急激に増加したことから,ボールに大きな力およびパワーを加えるためには,体幹の前方回転が重要であると考えられた.(3)平均動作モデルの踏切局面における動作的特徴は,体幹をやや前傾し,左側屈させた状態で踏み切ること,振上脚を横方向に外転させながら振り込むことなどであった.(4)平均動作モデルの投球局面における動作的特徴は,上胴の投球方向への急激な回転に伴い投球腕の肩が水平内転,内旋し始めること,体幹を左側屈させて肩の外転をあまり大きくしないで投射高を高くしていることなどであった.以上のことから,ハンドボールにおけるシュートの決定要因の 1つであるボール初速度を高めるには,空中で体幹の前方回転が重要であると考えられる.また,投球腕の肘のみを挙上して投げるのではなく,体幹を非投球腕側に側屈させることで肩の外転をあまり大きくさせず,投射高を高めることができると考えられる.

(受付日:2020年9月9日,受理日:2020年11月11日)

フランスハンドボールの長期的タレント発掘・育成事業(報告)

平本 恵介(筑波大学大学院人間総合科学研究科)
山田 永子(筑波大学体育系)

論文概要:熊本県で行われた2019女子ハンドボール世界選手権大会に合わせて,国際コーチシンポジウムが2019年11月30日から12月2日にかけて開催された.本稿の内容は,その時のPaul Landure 氏による「フランスハンドボールにおけるタレント教育システム」の講義を翻訳・要約したものである.Paul Landure 氏は,フランスハンドボール協会のナショナルトレーナーであり,国際ハンドボール連盟(IHF)のレクチャラーでもある.

(受付日:2020年4月3日,受理日:2020年4月28日)

1対1におけるフェイントのバリエーション(翻訳)

山本達也(茨城県立土浦第三高等学校)

論文概要:本論文は,国際ハンドボール連盟(IHF)で紹介された「Variations of feints in one-on-one play」の翻訳である.本論文の筆者は,韓国代表チームや日本リーグで選手・コーチとして活躍したIHFアナリストの呉成玉(Oh Seong-Ok)氏である.筆者は,この論文において,2019年に日本で開催された女子世界選手権を分析し,1対1に関する見解を述べている.本論文には,ポジションごとに必要とされるフェイントやノルウェー代表のOftedahlのプレー分析などが紹介されている.

(受付日:2020年8月30日,受理日:2020年9月16日)

レフェリーの客観的評価を目指して:判定の実態調査(問題提起)

清水 宣雄(国際武道大学体育学部)

論文概要:本研究の目的は,レフェリーの客観的評価法の確立である.その第一歩として,判定の実態を調査した.筆者は,先行研究において,ハンドボールの競技規則自体の問題点を明らかにした.レフェリーのレベルアップのためには,先ず客観的評価法の確立が重要である.本研究においては,国際レフェリーとしての経歴を持つ観察者が,実際の試合を観戦しながらデータを入力した.分析により以下の点が明らかとなった.(1)身体接触の判定数の分布近似から審判評価基準指標作成の可能性があること.(2)国内の試合では性別・Level別で身体接触の判定数に顕著な差がないこと.(3)試合状況によって身体接触の判定数に一定の傾向が見られる可能性があること.

(受付日:2020年8月31日,受理日:2020年10月13日)