ハンドボールにおける卓越した指導者の指導力の熟達化に関する事例研究:高校・大学において全国大会で17回優勝している監督の語りを手がかりに(原著論文)

楠本繁生(大阪体育大学体育学部)
田代智紀(九州共立大学スポーツ学部)
會田 宏(筑波大学体育系)

論文概要:本研究の目的は,わが国のハンドボール界を代表する卓越した指導者・楠本繁生監督のコーチングに関するライフヒストリーを事例として提示し,指導力の熟達化にとって重要な出来事や行動と,そこから得られた教訓を明示することを目的とした.1対1の半構造化面接を行い,対話的に語りを構築し,その語りを質的に分析・解釈した結果,以下の3点が明らかになった.(1)楠本氏の指導観は,競技力の向上に伴い「選手に専心性を求め,意欲的にハンドボールに取り組ませる」から「指導者の直接介入により,監督自身のハンドボール観の実現」へ,さらに「選手に責任を持たせ,様々な状況を自ら解決できる自立した選手の育成」へと変容していった.(2)楠本氏は,状況に応じてプレーを選択する能力,位置どりやタイミングを味方とあわせる能力の養成を特に重視して選手の個人戦術力を養成しようとしていた.(3)楠本氏は,指導の初期から,自らの指導実践とその省察だけでなく,他者の指導行為を自らの指導経験を補ったり,深めたりするために利用し,卓越した指導力を身につけていった.
(受付日:2015年10月8日,受理日:2015年10月30日)

ハンドボール競技におけるセンタープレーヤーの攻撃プレーの特徴:国内大学女子トップレベル選手を対象に(原著論文)

中原麻衣子(福岡大学スポーツ科学部)
山田永子(筑波大学体育系)
藤本 元(筑波大学体育系)
會田 宏(筑波大学体育系)

論文概要:本研究の目的は,大学女子トップレベルにおけるセンタープレーヤーの攻撃プレーの特徴を,シュートプレーとアシストパスプレーに着目して明らかにすることであった.2012年関東学生女子ハンドボール春季リーグ戦に,各チームのレギュラー選手として出場したバックコートプレーヤー24名を対象に記述的ゲームパフォーマンス分析を行った.その結果,以下の2点が明らかになった.(1)センタープレーヤーは,チームの最終局面を多く任されているが,最終プレー成功率はレフトバックおよびライトバックと有意な差はなかった.また,アシストパス依存率とアシストパス成功率は,センタープレーヤー,レフトバックおよびライトバックとの間に有意な差は認められなかった.(2)センタープレーヤーが行うシュートプレーとアシストパスプレーは,レフトバックおよびライトバックよりも,多くのバリエーションを持っていた.また,最終局面の状況に応じていた.これらの結果から,センタープレーヤーは,シュートプレーとアシストプレーの両方において,チームの中で効果的な攻撃プレーを行っているが,防御側の予測をより困難にさせる選択肢を持つためには,多様なシュートテクニックを習得する必要があることが示唆された.
(受付日:2015年10月7日,受理日:2015年11月5日)

ハンドボール競技におけるポストシュートに対する有効なゴールキーピングに関する研究:熟練者と非熟練者の比較から(研究資料)

桑原康平(仙台大学体育学部)

論文概要:本研究の目的は,ポストシュートに対するゴールキーピングについて熟練者と非熟練者の差異を明らかにすることであった.この目的を達成するために,三次元分析を用いて実験的に検討した結果,以下の4点が明らかになった.(1)熟練GKは非熟練GKに比べ,短時間でゴールキーピングを行っている.(2)熟練GKは非熟練GKに比べ,シューターのシュート動作に対し,遅いタイミングで位置取りを始めるが,位置取り完了とミート動作の開始については,早いタイミングで行っている.(3)熟練GKは非熟練GKに比べ,ボールに対する位置取りのずれが小さい傾向にあり,シュートコースを制限できている.(4)熟練GKは非熟練GKに比べ,シューターに対して最初は大きく間合いを保っているが,バックスイング完了からフォワードスイング開始までの間に急激に間合いを縮め,シュートコースを制限している.これらの結果から,熟練GKは,ポストシュートに対するゴールキーピングにおいて,自らはシューターの動きに対応する状況を整えつつ,シューターに対しては,シュートコースに制約を与えることを志向しながら,戦術的な駆け引きを行っていることが示唆された.
(受付日:2015年2月24日,受理日:2015年5月1日)

ハンドボール競技におけるゴールキーパーの身長とシュート阻止率の関係(研究資料)

山田盛朗(東京都市大学共通教育部)
山田永子(筑波大学体育系)

論文概要:本研究では,我が国の学生レベルのハンドボール競技において,高身長のGKは低身長のGKに比べて全体のシュート阻止率及びシュート状況ごとの阻止率が高いかどうかを明らかにすることを目的として,関東学生ハンドボール1部リーグに所属する男女GKを対象に比較を行った.その結果,国内学生レベルのGKの身長とシュート阻止率の関係について,以下の5点が明らかになった.(1)男子の全体の阻止率について,高身長群のGKと低身長群のGKとの間に有意な差は認められなかった.(2)男子のシュート状況別の阻止率では,左利きによる右サイドシュートの最終阻止率及び枠内シュート阻止率について,低身長群のGKは高身長群のGKに比べて有意に高い傾向が認められた.(3)女子の枠内シュート阻止率について,高身長群のGKは低身長群のGKに比べて有意に高いことが認められた.(4)女子の防御組織前の速攻の枠外シュート生起率について,低身長群のGKは高身長群のGKに比べて有意に高いことが認められた.(5)女子のミドルシュートの枠外シュート生起率について,低身長群のGKは高身長群のGKに比べて有意に高い傾向が認められた.これらの結果から国内学生GKの身長の高低はプレー結果の予測因子として不十分であることが示唆された.
(受付日:2015年6月2日,受理日:2015年8月1日)

女子ハンドボール選手におけるスポーツ動作時の膝関節外反角度と下肢筋活動動態の関連性(研究資料)

吉田成仁(帝京平成大学ヒューマンケア学部)
眞下苑子(筑波大学人間総合科学研究科)
増成暁彦(筑波大学人間総合科学研究科,茨城県立医療大学保健医療学部)
功刀 峻(筑波大学人間総合科学研究科)
大隈祥弘(帝京平成大学ヒューマンケア学部)
加納明帆(筑波大学人間総合科学研究科)
山田永子(筑波大学体育系)

論文概要:ハンドボール競技は,外傷・障害発生率の高いスポーツである.中でも,女子ハンドボール選手における膝関節の外傷は発生率が高く,前十字靭帯(ACL)損傷はカッティングやジャンプ着地時の損傷が多い.本研究では女子ハンドボール選手におけるジャンプ着地動作時における膝外反角度と下肢の筋活動動態との関係を調査した.その結果,ジャンプ着地時の最大膝外反角度が小さかったS群(9.5°以下)は,大きかったB群(9.5°以上)に比べ,大腿二頭筋の筋活動が有意に大きく,前脛骨筋の筋活動が有意に小さいことが明らかになった.膝外反角度を増大させない,すなわち膝関節の外傷を抑えるステップ動作を行うためには,着地前の大腿二頭筋の筋活動を高く,前脛骨筋の活動を低くする必要があるため,カッティング動作のトレーニングを実施するときには,着地前の膝関節の屈曲と足関節の底屈を意識させた動作の習得を行わせると良いことが示唆された.
(受付日:2015年9月14日,受理日:2015年11月12日)

Jクイックハンドボールの導入が小学生のゲームパフォーマンスに及ぼした影響:量的分析を用いて(研究資料)

井上元輝(筑波大学人間総合科学研究科)
橋本真一(筑波大学人間総合科学研究科)
下拂 翔(筑波大学人間総合科学研究科)
吉兼 練(筑波大学人間総合科学研究科)
佐藤奏吉(筑波大学人間総合科学研究科)
仙波慎平(筑波大学人間総合科学研究科)
伊東裕希(筑波大学人間総合科学研究科)
加納明帆(筑波大学人間総合科学研究科)
福田 丈(筑波大学体育専門学群研究生)
永野翔大(筑波大学人間総合科学研究科)
ネメシュ ローランド(筑波大学体育系)
山田永子(筑波大学体育系)
藤本 元(筑波大学体育系)
會田 宏(筑波大学体育系)
三輪一義(琉球大学教育学部)

論文概要:本研究では,平成27年全国小学生ハンドボール大会において導入されたJクイックハンドボールが小学生のゲームパフォーマンスに及ぼした影響について明らかにし,Jクイックハンドボールの導入の目標が達成されたかどうか検討した.平成26年および27年の準々決勝以降のゲームを対象に分析した結果,男子においては導入の目標が達成された可能性が,女子においては十分達成されなかった可能性が示唆された.
(受付日:2015年10月9日,受理日:2015年11月2日)

ヨーロッパチャンピオンズリーグにおけるディフェンスとオフェンス戦術の変更:2013年4月にVeszpremとKielが戦ったホーム&アウェイの2試合で見られた実践例(翻訳)

山本達也(茨城県立石岡商業高等学校)

論文概要:本論文は,2014年のヨーロッパハンドボール連盟(EHF)主催のマスターコーチセミナーで紹介された論文「Change of defense and offense strategy」の翻訳である.本論文の筆者は,ドイツ・ブンデスリーガのトップチームTHW Kielのコーチ・Alfred Gíslason氏である.筆者は,この論文において,2012–2013年シーズンのEHFチャンピオンズリーグ準々決勝Kiel–Veszpremの試合において自らが行った戦術変更の実際を紹介している.本論文は,ヨーロッパのトップレベルのコーチが,ホーム&アウェイの試合を戦うときに,第1戦をどのように指揮し,観察・評価し,どのように第2戦に向けた課題を認識し,ゲームプランを立案し,第2戦においてどのように戦術を変更したのかが書かれている.
(受付日:2015年10月1日,受理日:2015年10月30日)

ハンドボールの発展と日本ハンドボール学会(日本ハンドボール学会第3回大会基調講演要旨)

大西武三(日本ハンドボール学会会長)

本文より抜粋
私は,育成のキーワードは「自立」「個性」「創造」だと思っています.選手は学んで,考えて,創造していきます.必ず「学ぶ」世界がないと造ることはできないと思います.日本は考えさせることが欠けていると思います.学ぶことはNTSや本など,世界から得た情報で学ぶ.それらをもとにして子どもたちや指導者が考える.これが選手の個性や,ハンドボールの面白さに繋がります.自分で考える世界があるから面白くなるのです.何をどのように教えるのか,きちんと科学的な知見に基づいたデータを入れた指導モデルの構築を目指して欲しいです.この部分は日本ハンドボール学会の協力が必要不可欠です.NTSはあれだけ良い教材を作られたのですから,今後も積み重ねて発展させていくことが大切だと思います.

1対1の攻防における個人戦術:最新のゲーム分析結果と卓越した選手の持つ実践知を手がかりに(日本ハンドボール学会第3回大会シンポジウム要旨)

パネリスト:冨本 栄次(元日本代表・郡山女子大学付属高等学校)・青戸 あかね(元日本代表・山陽高等学校)
コーディネーター:船木 浩斗(中京大学スポーツ科学部)

本文より抜粋
【最新のゲーム分析結果(船木)】日本と韓国の選手が実践しているフェイク動作の組み合せ数を調べた結果,日本選手は1つのフェイクから突破を試みる動きが多く,その突破成功率は25%程度でした.韓国選手はパスフェイクとボディフェイクを連続で使うような2つや3つのフェイクを組み合せて突破を試みる動きが多く,その成功率は50%くらいでした.日本選手は単純なフェイクだけでなく,いろいろなフェイクの組み合せで突破するプレーを覚えなければなりません.
【1対1の突破に関する動きのコツ(冨本)】抜いた後に気をつけていたことは目線の方向です.たとえば,左バックでフェイントをかけて2枚目の防御プレーヤーを抜いた後,目線が味方のセンターに向いてしまうと3枚目は次の展開が読みやすくなって,センターのことを守りやすくなります.でも,3枚目の目を見ながら縦に入っていけば,その人は私から目を離すわけにはいかなくなるので,センターのことを守りづらくなってしまうと思うんです.
【1対1の突破阻止に関する動きのコツ(青戸)】1対1の防御で攻撃プレーヤーの突破を阻止するには,相手がオフザボールのときの動きが重要です.私は左か右のバックプレーヤーをマークすることが多かったのですが,センターがボールを持っているときに,必ずマークするバックへのパスコースより少し下の位置でけん制をしていました.このとき,バックの位置,背後の状況,味方の位置,センターのボールの持ち方の4つの情報を,どう守るのかの判断材料にしていました.