ハンドボール女子「2020ターゲットエイジ」における攻撃の現状と課題(原著論文)
吉兼 練(筑波大学人間総合科学研究科)
加納明帆(筑波大学人間総合科学研究科)
ネメシュ ローランド(筑波大学体育系)
會田 宏(筑波大学体育系)
論文概要:本研究では,2020年東京オリンピックに向け,ターゲットエイジに指定されている年代の育成強化に有用な知見を得るために,2012年第4回女子ユース世界選手権と2014年第19回女子ジュニア世界選手権におけるゲームパフォーマンスを記述的に分析し,女子ターゲットエイジにおける攻撃の現状と課題について検討した.その結果,現状として,日本女子ユース代表,ジュニア代表ともに1次速攻の生起率とシュート成功率は対戦相手よりも高いが,遅攻における攻撃成功率とシュート成功率は低く,その傾向はジュニア代表で顕著であったこと,課題として,前方に防御者をおいた状況でのシュート,6:0防御に対する攻撃,数的不均衡(退場)時における攻撃を改善する必要があることなどが示された.
(受付日:2016年7月19日,受理日:2016年9月5日)
ハンドボールの攻撃様相を明らかにするための配列分析を用いた新しい分析手法の提案:ヨーロッパ女子トップレベルチームを対象として(原著論文)
市村志朗(東京理科大学理工学部)
生川岳人(日本体育大学体育学部)
森口哲史(福岡大学スポーツ科学部)
福田 潤(宮崎大学教育学部)
清水宣雄(国際武道大学体育学部)
宮崎 智(東京理科大学薬学部)
論文概要:2012年ヨーロッパ女子ハンドボール選手権でのセットオフェンス局面において,本研究にて提案した3段階の攻撃行動分類手法を用いることで,攻撃行動は15種類に分類することが可能であった.そして,本研究手法にて分類された攻撃行動種類を時系列に配列することで,攻撃行動の継続やシュートによる攻撃行動終了時に特有の攻撃行動配列が存在し,それぞれによって攻撃行動様相が異なることがあることが明らかになった.以上のことから,本研究にて用いた攻撃行動を分類し,攻撃行動配列を作成する手法は,ハンドボールのセットオフェンス局面での攻撃行動の繋がりを考慮した攻撃行動様相を明らかにする可能性がある有用な手法であることが提案された.
(受付日:2016年10月5日,受理日:2016年11月4日)
大学男子ハンドボールチームにおける情報分析活動の改善に関する事例報告:筑波大学男子ハンドボール部の2015年の活動を対象に(実践研究)
日比敦史(筑波大学人間総合科学研究科)
永野翔太(筑波大学人間総合科学研究科)
藤本 元(筑波大学体育系)
會田 宏(筑波大学体育系)
論文概要:本研究の目的は,大学男子ハンドボールチームにおける情報分析活動の改善事例について報告し,専任のテクニカルスタッフを配置できないチームにおけるスカウティング活動の可能性と有効性について検討することであった.この目的を達成するために,2015年に筑波大学男子ハンドボール部に新たに組織された情報分析局の活動をフィールドノートなどの基礎資料をもとにまとめた.情報分析活動の改善の過程を振り返り,本事例を以下のように総括した.(1)パソコンおよびゲーム分析ソフトを用いることは,チームの求めるゲームパフォーマンスのデータ収集やスカウティング映像の作成の効率化に有効である.(2)スカウティング映像などをYouTubeにアップロードし,チーム内で共有することは,より効率的なミーティングを可能にする.(3)専任のテクニカルスタッフを配置できないチームにおいて,情報分析活動のための組織を作ることは,コーチングスタッフから選手への効率的な情報伝達を可能にする.
(受付日:2016年9月26日,受理日:2016年10月19日)
中学男子ハンドボール競技における大会使用球の変更がゲーム様相に与える影響(研究資料)
仙波慎平(筑波大学人間総合科学研究科)
藤本 元(筑波大学体育系)
山田永子(筑波大学体育系)
會田 宏(筑波大学体育系)
論文概要:本研究では,記述的ゲームパフォーマンス分析を用いて,中学男子ハンドボール競技におけるJOC大会での大会使用球が2号球から3号球へと変更されたこと,すなわちボールがひと回り大きく重くなったことがゲーム様相にどのような影響を及ぼしているのかを明らかにすることを目的とした.主な結果は以下の通りである.(1)攻撃成功率が減少した.特に遅攻における攻撃成功率が減少した.その要因はミス率の増加,ミドルおよびロングのシュート成功率の減少であった.(2)ウイングシュートの生起率が増加した.(3)消極的防御である6:0防御の生起率が増加した.(4)速攻の生起率,その中でも3次速攻の生起率が増加した.これらの原因として,ボールハンドリング力の低下が考えられた.ゲーム様相の変化は日本の強化方針に反する方向で進んだため,JOC大会における大会使用球については,再検討する必要があると示唆された.
(受付日:2016年9月26日,受理日:2016年10月19日)
チームタイムアウト時のコーチング(翻訳)
山本達也(茨城県立石岡商業高等学校)
論文概要:本論文は,ヨーロッパハンドボール連盟(EHF)のウェブサイトに掲載されている論文「Coaching during team time-out」の翻訳である.本論文の筆者は,EHF Expert のデンマーク人コーチErik Veje Ramussen 氏である.筆者は,この論文において,チームタイムアウト時にどのような内容の指示をどのように与えるべきか,その指示が選手にどのような影響を与えるのかなどを紹介している.
(受付日:2016年8月5日,受理日:2016年10月2日)
ゴールキーピングの歴史(翻訳)
小俣貴洋(筑波大学人間総合科学研究科)
福田 丈(筑波大学人間総合科学研究科)
日比敦史(筑波大学人間総合科学研究科)
會田 宏(筑波大学体育系)
論文概要:本論文は,国際ハンドボール連盟(IHF)が発行している『WORLD HANDBALL MAGAZIN』(2015年第2号46~53ページ)に掲載された「A history of goalkeeping」の翻訳である.競技誕生から現在に至るまで優秀なゴールキーパーたちがどのような技術を用いてきたのかをスカンディナビアとユーゴスラビアの2大流派を軸に説明するとともに,今後のゴールキーパーの発展傾向に関しても言及している.本文はIHF ウェブサイト(http://ihf-online.info/magazine/issue22015/index.html)でも公開されている.
(受付日:2016年9月20日,受理日:2016年10月19日)
男子EHFヨーロッパハンドボール選手権2014デンマーク大会の質的分析(翻訳)
髙橋豊樹(日本オリンピック委員会)
吉村 晃(豊田合成株式会社)
論文概要:本論文は,ヨーロッパハンドボール連盟(EHF)主催の2014年EHFヨーロッパ選手権デンマーク大会の質的分析「Men’s EHF European handball championship, Denmark 2014 qualitative analysis」の翻訳である.本分析の筆者は,ヨーロッパハンドボール連盟のテクニカルグループのメンバーに相当するEHF Lecturesである.筆者はこの分析において,ナショナルチームの多数の選手が国外チームプレーしているためチームとしての準備期間が短いこと,戦略と戦術が大陸全体に広く知られるようになったことで「各国の特徴」が薄れていることに触れている.そのため,オフェンスにおける解決方法は統一されつつあり,プレーがより予測しやすくなったと述べている.また,オフェンスシステムのトレンドも紹介している.さらに,明確な成功の鍵の1 つに,バックポジションからのシュート成功率が挙げられることについても言及している.
(受付日:2016年9月21日,受理日:2016年10月5日)
試合前におけるウォームアップの現代化(翻訳)
平子大喜(中京大学大学院体育学研究科)
新井翔太(NPO法人名古屋スポーツクラブ)
井上元輝(朝日大学保健医療学部)
船木浩斗(中京大学スポーツ科学部)
論文概要:本論文は,2014年のヨーロッパハンドボール連盟(EHF)主催のマスターコーチセミナーで紹介された論文「Modernization of the pre-game warm-up」の翻訳である.この論文において,筆者であるオランダ人コーチのMark Schmetz 氏は,3段階のウォームアッププログラムの考え方や具体的な取り組み方について,図や写真を用いて紹介している.そこでは,より速く,より激しく,より力強く変化してきたハンドボールの試合の準備として,これらの変化に適したウォームアップを行うことと,コーチ自身のビジョンに基づいて独自のプログラムを創造することの重要性が語られている.
(受付日:2016年10月11日,受理日:2016年11月4日)
スポーツ科学はコーチング実践に役立っているのか(日本ハンドボール学会第4回大会基調講演要旨)
會田 宏(筑波大学体育系)
本文より抜粋
スポーツ科学者は,コーチング活動を支えたいと思っています.実践がどうなっているのかを客観的,論理的,普遍的に明らかにしたいと考えており,どうやったらいいのかを考えているコーチとは視点が違います.コーチや選手が住んでいる実践の世界は固有の世界で,常に時間的・空間的な制約や人の制約があって,いろいろな因果関係が複雑に入り組んでいます.そのため,従来の科学の枠組みである客観性,論理性,普遍性を保証して生まれてきた理論は,コーチングの実践世界を説明することが難しく,その理論をもって,次のコーチングを予測することやコントロールすることはできないのです.行為者の視点を持って主観的,直観的,状況的に指導しているコーチに対して,観察者の視点を持ってコーチングの実践世界を研究しているスポーツ科学者は,どうしても現場から離れた知を生み出してしまうことになります…
リオデジャネイロ五輪女子アジア予選日本対韓国戦の検証:量的および質的な分析評価をもとに(日本ハンドボール学会第4回大会シンポジウム要旨)
パネリスト:市村志朗(東京理科大学理工学部)・嘉数陽介(東海大学大学院)・吉村 晃(豊田合成株式会社)
コーディネーター: 山田永子(筑波大学体育系)
本文より抜粋
【量的分析(嘉数)】
シュート成功率をみると,日本(53.2%)は韓国(66.9%)に比べて約13パーセント下回っています.フィールドシュート(9mの外から放たれるシュート)を見ると,生起数に関して,日本は41本,韓国は37本で,4本しか差がありません.しかし,シュート成功率では日本(29.3%)は韓国(56.8%)に比べて27パーセント低い数値でした.
【量的分析(市村)】
防御の方を見てみると,最も大きな差は,日本がフィールドシュートを守れなかったところです.フィールドシュートの生起率は低いのですが成功率が高い.つまり,打たれないようにはできているけれども,打たれたら入ってしまうということです.ミスの誘発率も日本の方が低いです.
【質的分析(吉村)】
日本のディフェンスは最初が悪かったのではないかと思いました.最初の失点がポストでやられています.狙いとは違う方向に前半が流れていく兆候だったのではないかと思いました.高い位置でディフェンスをしても,想定外の失点が続きました.この影響を受けて,再びディフェンスラインは下がらざるを得なかったのだと思います.