ハンドボール指導者による選手の主観的プレー能力評価は選手の絶対的体幹固定筋力およびスクワット最大挙上重量を反映する(原著論文)

楠本繁生(大阪体育大学体育学部)
井川貴裕(至誠館大学ライフデザイン学部)
下川真良(大阪体育大学体育学部)
下河内洋平(大阪体育大学体育学部,大阪体育大学院スポーツ科学研究科)

論文概要:本研究は,大学女子ハンドボールチームを指導する一流コーチによる,大学ハンドボール選手のプレー能力の主観的評価と,スクワットの最大挙上重量(SQ1RM)および最大体幹筋力との関係性を検証することを目的とした.大学1部のチームに所属する22人のハンドボール選手のプレー能力は,彼らを指導するコーチによって,1~10の尺度で主観的に評価され,各選手のSQ1RMおよび最大体幹筋力の測定も行われた.ステップワイズ重回帰分析を用い,各主観的プレー能力の評価項目を従属変数とし,SQ1RMおよび最大体幹筋力を独立変数として各変数の関係性を検証した.その結果,最大体幹筋力の高いほど,コンタクト時の軸の安定性が高く,シュート時のボディーコントロールが良く,カットおよびフェイント動作素早く,ルーズボールの競りが強く,ディフェンス時のフットワークがうまく,身体接触が強く,連戦時の体力の回復が早いという有意な関係性が明らかとなった.また,SQ1RMが高いほど,ジャンプシュート時の跳躍時間がより長いという有意な関係性も示された.これらの結果は,下肢および体幹の筋力は,ハンドボール選手個人のプレー能力を向上させる上で重要な要因であることを示しているといえる.

(受付日:2017年4月17日,受理日:2017年5月30日)

ハンドボール競技におけるオフェンスプレーを観察する着眼点:卓越した指導者の観察記述を手がかりとして(原著論文)

伊東裕希(岐阜聖徳学園大学経済情報学部)
井上元輝(朝日大学保健医療学部)
會田 宏(筑波大学体育系)

論文概要:本研究の目的はハンドボールのセット局面におけるオフェンスプレーを観察するために必要な指導者の着眼点について明らかにし,実践現場のコーチに有用な知見を提供することであった.日本体育協会公認ハンドボールコーチの資格を所有し,コーチとして日本代表チームを指揮した経験,または海外での公認コーチ資格を所有する4名の卓越した指導者に,各年齢カテゴリーの世界大会におけるオフェンスプレー8シーンを個別に観察させ,シーンごとにオフェンスの印象をできるだけ多く記述させた.対象者4名の記述内容をKJ法を用いて分析した結果,以下のことがわかった.本研究の対象者である卓越した指導者は,オフェンスプレーを「状況」,「オフェンス」,「ディフェンス」,「ディフェンスとの関係」,「有効な解決策」の5つの着眼点を持って観察していた.「状況」に関しては「時間と空間」と「ボールの有無」を,「オフェンス」に関しては「攻撃プレーヤー」と「攻撃にかける人数」を,「ディフェンス」に関しては「牽制」などのプレー内容をそれぞれ観察していた.また,「オフェンス」と「ディフェンスとの関係」に関しては「駆け引き」や「影響」などを,「有効な解決策」に関してはプレーの「評価」や「可能性」などを観察していた.

(受付日:2017年9月23日,受理日:2017年10月30日)

事象の生起様相および相手チームとの関係性に着目したゲーム分析方法の開発(原著論文)

橋詰 謙(大阪大学医学系研究科)
小笠原一生(大阪大学医学系研究科)

論文概要:本研究では,ハンドボール日本代表の試合などを含む20試合のビデオ映像から,試合中に生起した得点とそれ以外の事象(シュートの失敗,パスミスなどのテクニカルミス,反則)の配列と数に基づいて,3つの期(連続得点期,事象混在期,攻撃停滞期)を同定し,試合中の好不調期を視覚化した.そして得点グループおよび失点グループの種々のデータの分析から,試合の状況を明らかにする方法を開発した.この方法により以下のことが明らかとなった.(1)試合中には短い間隔で3つの期が入り乱れて出現する,(2)得点数と失点数は,自チームと相手チームの連続得点期の出現時間と強い関係がある,(3)両チームの連続得点期と攻撃停滞期が重なり合う程度も得失点数や得失点差に強く関与する.今回開発した方法は,ハンドボールのゲーム分析とそれに基づくチームの行動指針の立案に有効であると結論される.

(受付日:2017年9月26日,受理日:2017年10月30日)

ハンドボールにおける基本プレイ・アルゴリズム構築に関する研究:1対1突破局面におけるステップスキル体系化の試み(実践研究)

清水 宣雄(国際武道大学体育学部)
東 俊介(株式会社 藤商)

論文概要:筆者は,初心者指導マニュアルの作成を目指し,「ハンドボールにおける基本プレイ・アルゴリズム構築に関する研究」を行っている.学習指導要領においても,技術・指導法の体系化が求められている.本研究においては,1対1の突破局面におけるステップスキルの体系化を試みた.ステップスキルの体系化は,1対1突破局面の指導法の発展に寄与できるものである.体系化のために,局面を3つに区分し,ステップの方向を2つに分類した.制限歩数内で,Receive前のParallel・Counter,Receive後・Pickup後の基準足・Approach・Hold・Shoot・Dribbleを組み合わせることで,ステップスキルを構築し,体系化を図った.その結果,Receive前において4パターン,Receive後において23パターン,Pickup後において10パターンのステップが構築された.これらのパターンを組み合わせたステップを,個々に全てトレーニングすることは困難であるので,基本的なステップを全て組み込んだトレーニングドリルを考案した.

(受付日:2017年9月20日,受理日:2017年10月20日)

日本人大学女子ハンドボール選手のACTN3及びUCP2遺伝子多型と形態・体力との関連性(研究資料)

位髙駿夫(順天堂大学スポーツ健康科学研究科)
笠原朋香(東海大学)
花岡美智子(東海大学体育学部)
栗山雅倫(東海大学体育学部)
町田修一(順天堂大学スポーツ健康科学研究科)

論文概要:本研究は,大学女子ハンドボールアスリートの体組成及び体力とACTN3及びUCP2遺伝子多型の関連性を明らかにすることを目的とした.対象者はT大学女子ハンドボール部の選手33名とした.対象者の唾液を採取しDNAを抽出した.DNAはPCR-RFLP法を用いて,αアクチニン3(ACTN3)遺伝子多型(rs1815739)と脱共役タンパク質2(UCP2)遺伝子多型(rs659366)の遺伝子型を同定した.さらにそれぞれの対象者は体組成及び体力測定(握力,50m走,20mシャトルラン,垂直跳び,ハンドボール投げ,ベンチプレス及びスクワットの最大挙上重量)の測定を行った.ACTN3遺伝子多型(Rアレル保有者とXX型の比較)とUCP2遺伝子多型(GG型とAアレル保有者の比較)において,ハンドボール選手と一般的な日本人の頻度に違いがあった.本研究の結果,大学女子ハンドボール選手のACTN3及びUCP2遺伝子多型の頻度に特徴がある事が示唆された.

(受付日:2017年2月20日,受理日:2017年4月12日)

ハンドボール競技におけるトレーニング後の皮膚表面の変化(研究資料)

山田盛朗(東京都市大学共通教育部)
枝 伸彦(早稲田大学スポーツ科学学術院)
曽根良太(筑波大学人間総合科学研究科)
伊藤大永(早稲田大学スポーツ科学研究科)
渡部厚一(筑波大学体育系)
赤間高雄(早稲田大学スポーツ科学学術院)

論文概要:本研究は,ハンドボールのトレーニング前後の皮膚細菌数の変化を皮膚バリア機能の変化とともに検討することで,競技実施後の皮膚感染症の罹患リスクをより詳細に明らかにすることを目的とした.ハンドボール部に所属する男子大学生8名を対象とし,運動前,運動後及び運動の60分後の角質水分量,TEWL(transepidermal water loss),真皮水分量,表皮ブドウ球菌,黄色ブドウ球菌,MRSA(Methicillin-resistant Staphylococcus aureus)の測定を行った.運動後に角質水分量が急激に増加し,それにともなって,表皮ブドウ球菌が増加し,黄色ブドウ球菌も増加傾向にあることが明らかになった.MRSAについては,運動前に2名の選手から検出されたのに対し,運動後に4名の選手から検出された.本研究の結果から,ハンドボールの練習後には,皮膚感染症の罹患リスクが増大する可能性が示唆された.

(受付日:2017年5月30日,受理日:2017年8月16日)

ハンドボール競技におけるサイドシュートに対するゴールキーピング動作:世界女子トップレベルにおける同一身長のゴールキーパーを対象に(研究資料)

下拂 翔(筑波大学人間総合科学研究科)
永野翔大(筑波大学人間総合科学研究科)
山田永子(筑波大学体育系)
ネメシュ ローランド(筑波大学体育系)
會田 宏(筑波大学体育系)

論文概要:本研究の目的は,世界女子トップレベルのゴールキーパーがサイドシュートに対して使用しているゴールキーピング動作について調査し,日本代表女子のシュート阻止率向上に有用となる資料を得ることだった.同一身長(178cm)のゴールキーパー3名(L. Glauser(フランス代表),A. Leynaud(フランス代表),T. Wester(オランダ代表))を対象に,記述的ゲームパフォーマンス分析を用いて調査した結果,以下の知見を得た.(1)3名のゴールキーパーのサイドシュート阻止率は,38.4〜52.3%の範囲にあった.(2)3名のゴールキーピング動作の共通点は,プレセービング局面において,横方向と縦方向への移動,構えの変化をほとんど行わないことであった.(3)3名のゴールキーピング動作の相違点は3点あった.1点目はシュートエリアへ移動する際のゴールポストへの接触の有無,2点目はシューターと対峙する際の移動の有無,3点目はセービングの際の踏み切り脚であった.

(受付日:2017年9月13日,受理日:2017年10月31日)

ハンドボールにおけるステップシュートの指導法に関する事例:国際レベルのコーチ資格を有する卓越した指導者の語りから(研究資料)

井上元輝(朝日大学保健医療学部)
藤本 元(筑波大学体育系)
會田 宏(筑波大学体育系)

論文概要:本研究では,国際レベルのコーチ資格と国際試合を指揮した経験を持ち,卓越した指導力を有するコーチを対象に,ステップシュートのコツおよび指導上の工夫などについてインタビュー調査を行い,ステップシュートの効果的な指導法の開発に役立つ基礎的知見を事例として実践現場に提供することを目的とした.その結果,ステップシュートを使って得点をあげるために大事だと考えていること,ステップシュートの技術(撃ち方)をどのように整理しているか,ステップシュートを指導するときに工夫していること,指導してきた中で最もステップシュートが上達した選手について,初心者へのステップシュートの指導についての5つを提示できた.また,これらの内容を考察した結果,ステップシュートの習得において,短いバックスイングの指導はまず始めに取り組まなければならない基本動作であることが示唆された.

(受付日:2017年9月22日,受理日:2017年10月4日)

Handball goalie’s elbowの1例(症例報告)

桂 健生(筑波大学附属病院)
大西信三(筑波大学附属病院)
村上浩平(筑波大学附属病院)
鎌田浩史(筑波大学附属病院)
山崎正志(筑波大学附属病院)

論文概要:ハンドボールにおける障害はポジション毎に傾向があり,ゴールキーパーでは特に肘の障害が高頻度に認められる.過去の研究では,ゴールキーパーの75%は競技人生の中で1度は何らかの肘の障害を経験すると報告されている(Tyrdal,1996).それらは総称して“handball goalie’s elbow”と呼ばれている.今回我々はhandball goalie’s elbowの症例を経験し,治療法などを検討したので報告する.ハンドボールのゴールキーパーにおいて肘の障害は一般的である.特に内側側副靭帯の受傷に関しては長期化や再燃が多いため,正確な診断のもと,その治癒に一定の期間を有することを理解しなければならない.また,長期の治療計画を患者にも理解させ実施していくことが必要である.

(受付日:2017年10月2日,受理日:2017年10月27日)

前十字靭帯損傷を防ぐための環境整備:受傷時動画の検証から(事例報告)

村上浩平(筑波大学整形外科)
大西信三(筑波大学整形外科)
桂 健生(筑波大学整形外科)
鎌田浩史(筑波大学整形外科)
山崎正志(筑波大学整形外科)

論文概要:前十字靱帯(ACL)損傷はハンドボール選手にとって,復帰までに長期間を要する頻度の高い傷害の1つである.我々は女子ジュニアトップ選手の用例を報告するとともに,環境因子の検討を行った.19歳女性の2例,どちらもハンドボール女子ジュニア世界選手権に出場し,試合中に受傷した.1例は2次速攻中の切り返し時に受傷,もう1例は速攻の着地時に受傷した.帰国後,MRIでACL損傷と診断され,手術加療がなされた.どちらの症例も人工床で受傷し,1症例は足がコート上の広告の縁に引っかかっているように見えた.コートの種類,海外製の松ヤニ,床面の掃除の頻度など,床面の摩擦が変化する不確定な要因は多々あり,ACL損傷には環境因子も受傷に関係している可能性が示唆される.

(受付日:2017年9月7日,受理日:2017年10月6日)

ハンドボールにおけるゲーム中の負荷に関する検討:時間帯別のボールポゼッションの分析に基づいて(翻訳)

船木浩斗(中京大学スポーツ科学部)
井上元輝(朝日大学保健医療学部)
伊東裕希(岐阜聖徳学園大学経済情報学部)
禿 隆一(朝日大学保健医療学部)
富田恭介(中部大学全学共通教育部)
新井翔太(NPO法人名古屋スポーツクラブ)
高橋豊樹(トヨタ車体株式会社)
山下純平(愛知教育大学教育学部)

論文概要:本論文は,2013年に行われたヨーロッパハンドボール連盟(EHF)主催のマスターコーチセミナーにおいて紹介された論文「Match load examination in playing handball based on the analysis of the time-span of ball possession」の翻訳である.本論文において筆者であるCsaba Ökrös氏は,男子・女子のナショナルチームおよび天王山を戦うクラブチームの攻撃局面におけるパフォーマンスを,勝ちチームと負けチーム,男子チームと女子チームの観点からそれぞれ比較している.その結果,ボールポゼッションはチームの勝敗に直接の影響を与えていないこと,また,ゲーム中におけるセットオフェンスと速攻の回数は女子のほうが男子よりも多いが,得点チャンスに関する他の項目はすべて男子のほうが女子よりも高い値を示すことを明らかにしている.

(受付日:2017年9月18日,受理日:2017年10月11日)

センタープレーヤーとピヴォットプレーヤー:世界レベルの中心プレーヤーと有望な若手プレーヤーのコンビを比較した現代の傾向(翻訳)

山本達也(茨城県立石岡商業高等学校)

論文概要:本論文は,2016年のヨーロッパハンドボール連盟(EHF)主催のマスターコーチセミナーで紹介された論文「Center Backcourt And Pivot Player-Current Tendencies Comparing a World Class Axis with a Promising Young Players’ Duo-」の翻訳である.本論文の筆者は,スイスジュニア代表チームコーチ・Michael Suter氏である.筆者は,この論文において,世界トップレベルのセンタープレーヤーAndy SchmidとピヴォットプレーヤーBjarte Myrholのコンビとスイスの若手プレーヤーAlbin AliliとLucas Meisterのコンビを比較している.また,Andy Schmidのインタビューと試合の分析をもとに,センタープレーヤーとピヴォットプレーヤーのコンビに必要なこと,トップレベルのコンビと若手コンビの違いなどを述べている.

(受付日:2017年9月19日,受理日:2017年10月20日)

ヨーロッパにおけるハンドボール研究とコーチングの関係について(基調講演要旨)

フランチセック・タボロスキー(チェコ共和国,プラハ・カレル大学)

本文より抜粋

科学とコーチング現場の関係についてお話しします.例えば,練習の強度と病気発症との関係に関する研究では,不十分な強度,過度な強度で練習を行った場合,病気発症率は高くなるため,コーチは選手一人ひとりに適切な強度を設定することが大切だと報告しています.ここまでが科学の答えです.しかし,一人ひとりの選手にとって適切な強度は,それに影響を及ぼす要素が多すぎて,コーチにはわかりません.ここで皆さんにお伝えしたいことは,科学はある局所のみを対象にするが,コーチング現場は局所のみを対象にはできないということです.コーチング現場では,研究のように対象を細かく捉えすぎると前に進まなくなってしまいます.この科学とコーチング現場との乖離の問題を解決するのは,研究者でもありコーチでもある皆さんの責任となります.つまり,科学をコーチング現場で使えるようにする新たな方法を見つけなければならないのです.「ハンドボールコートで使える知識」を生み出すことは,大学教員の責任です.

前十字靭帯損傷は防げる! 選手を守るための現場的エッセンス(日本ハンドボール学会第5回大会シンポジウム要旨)

パネリスト:井本 光次郎(日本赤十字社熊本赤十字病院)・下河内 洋平(大阪体育大学)・川島 達宏(医療法人健佑会いちはら病院)
コーディネーター:小笠原 一生(大阪大学)

本文より抜粋

このシンポジウムの目的は,ハンドボールの中で起こるとりわけシビアな膝前十字靭帯(ACL)損傷ついての理解を深めることです.このシンポジウムがきっかけとなり,ハンドボール界を挙げたACL損傷予防のムーブメントにつながればと思っています.今日はACL損傷予防への思いを同じする先生方3人に集まっていただきました.ドクター,トレーナー,ストレングスといった異なる立場からACL損傷を研究する3人です.このケガは絶対に防げる!という信念のもと,どのようにマネジメントすれば,ACL損傷が減るのか,選手にとって安全な環境を提供できるのかを,前向な観点からご紹介いただきます….