日本ハンドボール界の実態調査からみた課題:ハンドボールプロ化に向けて

(原著論文)

  • 舎利弗学(立命館大学大学院スポーツ健康科学研究科)
  • 岡本直輝(立命館大学スポーツ健康科学部)

論文概要:本研究では,日本ハンドボール界がプロ化を進めるにあたり,日本の「競技人口」,「チーム数」,「指導者」,「審判員」の現状について分析し,日本ハンドボール界の取り組むべき課題について検討した結果,以下の課題が明らかになった.①日本ハンドボール界の競技人口とチーム数は,2000年度から2010年度までは増加してきたが,以降,2010年度あたりから2019年度にかけて著しい増加率は示さなかった.社会人の競技人口とチーム数の増加など活性化が課題である.②公認指導者数は,2012年度から2021年度において増加している.チーム役員の公認指導者資格の登録義務化を控え,資格を有する指導者の育成が急務である.また,競技未経験の指導者を支援するシステム構築が重要である.③公認審判員数は,2000年度から2019年度において増加している.日本ハンドボール協会や都道府県ハンドボール協会が主導している公認審判員養成事業の効果と考える.今後,国際審判員を含めた審判員育成と,資格取得後に活動しやすい環境の整備が課題である.④都道府県ハンドボール協会の法人化を目指した改革が必要である.都道府県協会の組織強化は,競技人口の増加,新チームの創設,指導者や審判員の養成,地域の支援や寄付広告を受けやすい環境の創出に繋がり,結果としてプロスポーツを支える体制の基礎になると考える.

(受付日:2022年6月20日,受理日:2022926日)

小学生年代のハンドボールにおけるシュート力向上のための技術的要点:全国大会で優れた成績を収めたチームの指導者の語りを手がかりに

(原著論文)

  • 吉永祐貴・中山紗織・會田 宏 (筑波大学)

論文概要:本研究では,小学生年代におけるシュート指導で重要視されている要点を明らかにすることを目的とし,全国大会で上位の成績を収めた指導者1名(A氏)を対象にインタビュー調査を実施した.インタビュー調査の結果を質的に分析し,シュート指導において選手に気を付けさせる重要な項目を抽出するとともに,重要な項目に関する発言をSCATを用いて分析し,小学生カテゴリにおけるシュート指導の実践知をストーリー・ラインとして記述・外化した.さらに,SCATで得られたストーリー・ラインを用いて各項目の関係性をメタな視点で考察した.その結果,A氏はシュートコース,タイミング,球速,高低差,ボールを握ること,正しい投げ方の6項目をシュート指導において重視していることが明らかになった.また,身体の成長段階である小学生ゴールキーパーの特徴,すなわちゴールマウス内において身体が届かない範囲が存在するという体格的な特徴と,スライディング等が未成熟であるという技術的特徴を踏まえ,シュートの成否に関わる最も重要な項目はシュートコースであると考えていること,そして,ゴールキーパーが反応可能な範囲を狭めるには,球速やタイミングがシュートの成否に寄与すると考えていること,さらに中学年代以降で必要となる難易度が高い技術も練習に取り入れていることが明らかになった.

(受付日:202284, 受理日:202295日)

ハンドボールに活かす心拍管理:日本代表男子ハンドボールチーム合宿での事例報告

(実践研究)

  • 小笠原一生(大阪大学大学院医学系研究科健康スポーツ科学講座)
  • 舎利弗学(立命館大学大学院スポーツ健康科学研究科)
  • 島俊也(にいたにクリニック)
  • 馬越博久(八王子スポーツ整形外科リハビリテーション部門)
  • 高橋豊樹(トヨタ車体株式会社)
  • 榧浩輔(公益財団法人日本ハンドボール協会)
  • 大西信三(筑波大学附属病院整形外科)
  • 市村志朗(東京理科大学教養教育研究院野田キャンパス教養部)
  • 中田研(大阪大学大学院医学系研究科健康スポーツ科学講座)

論文概要:ここでは20224月の合宿にて日本代表男子チームが実施した一連の心拍管理の取り組みの中で、特に実践的意義が認められた、①心拍動態からみたウォーミングアップ(以下、W-UP)の問題点と対処、②W-UPの見直しにおけるスタッフ間連携、③疲労下での練習と心拍動態、④心拍管理意識の継続性、以上、4事例を記述的に報告する。心拍数は呼吸循環器系の負荷を非侵襲に定量できる身体負荷指標として有用である一方、ハンドボールに活かす心拍管理法のノウハウは未整備であると言える。本報告では上記4事例を通じて彗星ジャパンが実施した心拍管理の実際の紹介を通じて、心拍データから、ハンドボールの競技力向上に資する情報の抽出法やそのフィードバック法を示し、ハンドボールにおける心拍管理の実践知を蓄積することを目的とする。

(受付日:2022514日,受理日:2022627日)

ハンドボールのトーナメント初戦における格上チームとの対戦に関する失敗事例:大学女子チームを率いたコーチのエスノグラフィー

(実践研究)

  • 松木優也(天理大学)
  • 銘苅 淳(京都先端科学大学)

論文概要:コーチング学分野においては,これまでの自然科学的な手法のみに捉われない,現場でのリアリティ溢れる実践を対象とした研究,すなわちコーチや選手の経験そのものを対象とした研究が注目されている.これまでにも,様々な手法で自らの実践を振り返り,実践知を見出そうとした研究はあるものの,失敗事例を対象とした研究は少ない.本研究は,大学女子ハンドボールチームを指揮した著者が体験した,格上チームとのトーナメント初戦において,終盤までリードするものの最終的に逆転負けをした失敗事例について,試合に向けた準備と敗戦に至るまでの過程を自己エスノグラフィーとして描き出し,敗戦の要因を検討するとともに,コーチング現場へ有用な知見を見出すことを試みたものである.本研究の結果から,以下の知見が得られた.

1.大会直前の戦術変更は,戦術有効性を考慮すれば一定の効果を発揮する可能性があるものの,その前提条件として日頃の練習からコーチと選手が戦略的思考を共有しておく必要がある.

2.コーチはゲームに向けた準備段階において,戦術のみを準備するだけでなく,その戦術が通用しリードする展開になる状況,あるいは通用せず劣勢になる状況など,戦術採用後の複数の展開を視野に入れたゲーム構想を練っておく必要がある.

3.格上チームとの対戦では,一時的な好展開やリードに囚われてしまうリスクがあるため,コーチはより冷静にゲームの状況を観察する意識を持つ必要がある.

(受付日:2022716日,受理日:2022926日)

ハンドボールの試合における流れの認識に関する事例的研究

(研究資料)

  • 榧 浩輔(日本ハンドボール協会)
  • 小俣 貴洋(筑波大学大学院人間総合科学研究科)
  • 會田 宏(筑波大学体育系)

論文概要:本研究では,試合の当事者による「試合の流れ」の認識方法を検証し,認識された「試合の流れ」とゲームパフォーマンスとの関係を明らかにすることを通して,「試合の流れ」を読み解く手がかりを実践現場に提供することを目的とした.2019年度全日本学生ハンドボール選手権大会決勝戦を対象試合とし,それを指揮した筑波大学の指導者2名と中心選手2名を対象者とした.まず,「試合の流れ」の認識について分析的方法および直感的方法の2つを採用し,どちらが相応しいかを検証した.その後,認識された「試合の流れ」とゲームパフォーマンスとの関係について検討した.その結果,「試合の流れ」を直感的に形勢として捉えさせる方法が流れの認識方法として妥当性が高い可能性が示唆された.また,「試合の流れ」の認識と相手チームの累積攻撃成功率や累積ミス率などの相関係数が高かったことから,「試合の流れ」は,自チームの防御結果を重視しながら,自チームと相手チームの相対的な関係から認識されている可能性が示唆された.これらのことから,指導者や選手は試合の観察においては,ゲームパフォーマンス指標を算出するなどしながら,自チームの防御の様相や相手チームの防御結果との関係性に着目することで「試合の流れ」を的確に認識し,選手起用やプレー選択などの判断を行う必要があると現場に提言できる.

(受付日:20211013, 受理日:2021129日)

2020東京オリンピックハンドボール競技における選手プロフィールおよびゲームパフォーマンスが最終順位に与える影響

(研究資料)

  • 加藤亮介(筑波大学大学院)
  • 小俣貴洋(筑波大学)
  • 會田 宏(筑波大学)

本研究は,2021 年に⾏われた 2020 東京オリンピック・ハンドボール競技におけるゲームパフォーマンスと選⼿プロフィールを男⼥ごとに,⼤会における最終順位と関連づけて検討し,国際トップレベルで⾼い成績を収めたチームの特徴について検討することを⽬的とした.2020 東京オリンピック・ハンドボール競技の全 76 試合を標本とし,IHF(国際ハンドボール連盟)公式記録をもとにして,コートプレイヤー312 名とゴールキーパー48名の選⼿プロフィールとプレー結果を分析した.まず,上位国(1 位から4位),中位国(5 位から 8 ),下位国(9 位から12 )間における,各分析項⽬の平均値の差を明らかにするために, ⼀元配置分散分析を行った.次に,コートプレイヤーとゴールキーパーのプロフィールおよ びプレー結果に関する分析項⽬と最終順位との相関関係を明らかにするためにピアソンの 積率相関係数を求めた.さらに,最終順位へ与える各分析項⽬の影響を調べるために,最終 順位を従属変数,分析項⽬を独⽴変数として重回帰分析を⾏った.有意⽔準はいずれも 5% および 1%で判定した.また 10%未満は傾向差ありと判定した.その結果,東京オリンピッ クにおける男⼥それぞれの上位国の特徴として,以下の 3 点が明らかになった.

. 男⼦はコートプレイヤーに,⼥⼦はゴールキーパーに,それぞれ経験豊富な選⼿が選出されている.

. 男⼦における上位国は,得点⼒があり,シュート成功率が⾼い.また,退場数が少なく,ゴールキーパーにおけるセーブ率が⾼い.

. ⼥⼦における上位国は,速攻による得点が多い.また,相⼿に速攻をされにくいように 攻撃を完了させている.

(受付日:2022411日,受理日:2022623日)

女子ハンドボール選手における30-15 Intermittent Fitness testの妥当性:Yo-Yo Intermittent Fitness recovery test Level 1との比較

(原著論文)

  • 髙山慎(大阪体育大学)
  • 仙波慎平(環太平洋大学体育学部体育学科)
  • 浅野幹也(環太平洋大学体育学部体育学科)

本研究は,1YYIR130-15 IFT最終到達速度の差の検定と相関関係を検討し,22つの間欠的持久力テストとフィールドベースの下肢パワーテスト:0-5 mでのスプリント時間,最大スプリント速度(MSS),方向転換,カウンタームーブメントおよびリバウンドジャンプ,水平ホップテストの相関関係の強さを比較することを目的とした.大学ハンドボール部の女子選手28名が参加した.相関分析の結果,30-15 IFTにおける最終速度(VIFT)は、YYIR1における最終速度(VYYIR1)と比較して、有意に高値を示し、強い正の相関がみられることが明らかとなった.また,VYYIR1 は、加速スピード,MSS,左脚での垂直跳びとRJ-RSIなどの下肢パワーテストと有意な相関が認められたが,VIFT は,いずれの下肢パワーテストとも相関関係が見られなかった.このことから,VIFTでは,スプリント能力(加速スピードやMSS)および跳躍能力と間欠的持久力を分けて評価している可能性が示された.また,YYIR1では,スプリント能力や跳躍力が高い選手が良い結果を示すという相関関係が見られた.これらの違いから,ハンドボール指導者は,30-15 IFTYYIR1の下肢パワー発揮能力との関係性の違いをふまえ, 30-15 IFTYYIR1のいずれかの測定項目を目的に応じて選択することが求められる.

(受付日:2022511日,受理日:2022722日)

レフェリーの客観的評価を目指して:判定目標の提案

(その他・問題提起)

清水宣雄(一般社団法人ウェルネスポーツ鴨川)

論文概要:本研究の目的は,レフェリーの客観的評価基準の確立である.今回は,判定数と主観的評価の関連性を求め,レフェリーが目指すべき数値目標を提案した.筆者は,ハンドボールでは身体接触が許されることを踏まえ,危険なもののみFoulとして,必ず罰則を付加し,危険のないものをInfringementとすることを提唱した.目的は,プレイを可能な限り継続させること,罰則の基準を分かり易くすることであった.身体接触に対して下された判定数と,第三者による主観的評価の関連性を求め,判定数の分布から,数値目標を提案した.目指すべき数値目標が明確になることによって,レフェリーが,何をどの様に努力するべきかを考慮するポイントが提供され,長年の課題である,レフェリーのレベルアップに貢献できるものと考えている.公式戦141試合のInfringement数・Foul数・Foul率を求め,度数分布と,ポアソン分布から求めた発生確率分布から,全体的に各数値がどの様な傾向で分布しているか求めた.さらに,観察者・勝チーム監督・負チーム監督による五段階評価との関連性を求めた.Infringement数においては,判定数が少ない程,評価が高い傾向が見られた.Foul数においては,関連性は全く見られなかった.Foul率においては,率が高い程,評価が高い傾向が見られた.判定数全体における評価の傾向と,5%水準での判定数と評価を考慮し,数値目標として,「Infringement14回以下」,「Foul31%以上」を提案した.これらの値が,偶然に発生することは確率的に稀であり,レフェリーの的確な試合運営の結果として達成されると考えられる.これらの目標数値を達成すること自体が目的ではなく,プレイを可能な限り継続させ,罰則の基準を分かり易く示して,罰則を的確に適用した結果として達成されるものであると考える.

(受付日:2022623日,受理日:2022927日)

東京2020 オリンピック会場メディカルサポート報告と課題:今後の競技安全性確保への提言

(その他・報告)

  • 花岡美智子(東海大学)

論文概要:本論文の目的は2020東京オリンピック大会ハンドボール競技会場においてメディカルスタッフとして活動した筆者が,大会前・期間中に実施した活動をまとめ,今後のハンドボール競技のメディカルサポートに役立てるための知見を提案することである.大会前の準備として,会場医療スタッフは①救急医療,搬送方法等の事前研修を受講,②競技会場全体図から医務室やAEDの配置,スタッフや選手の動線等を確認,③有事における対応マニュアルの確認,④備品,機材等のリストの確認を行った.大会期間中の活動に関しては,COVID-19による影響から競技会場の事前視察が実施出来なかったことで,会場全体図の把握,資機材の保管場所・使用方法の確認,スタッフ間の連携,などに十分な時間を確保することが出来ず,開始当初,円滑な活動を実施することが難しい状況であった.ハンドボールはスピード溢れる攻防,激しい身体接触を伴う競技であり,様々な怪我が発生する危険性を有している.その危険性はカテゴリーや競技レベルに関わらず共通していると考えられる.そのため,会場でのメディカルサポート体制として,確保すべきスタッフや資機材の詳細,救急対応マニュアルが示されれば,いずれのカテゴリー,大会運営においても安全な環境整備を進める有効な手段になるのではないだろうか.具体的には,ドクターもしくは脳震盪や頭頸部外傷などに対して初期対応が可能なスタッフが会場に配備されていること,BLS,頭頚部固定で必要とされるAED,バックボード等の備品が準備され,有事の対応マニュアルが会場スタッフ間で共有されていること,などである.またハンドボール選手の体型に適したサイズのバックボード,安全な搬送のために体力(筋力)のあるスタッフの手配,など想定したマニュアルが実際に可能であるか,シミュレーションを実施することでより安全性の高い活動が可能になると思われる.

(受付日:2022829日,受理日:202295日)

ハンドボール選手の専門化:学校部活動チームのコーチの語りを手がかりに

(その他・翻訳)

  • 井上元輝(中京大学スポーツ科学部)
  • 伊東裕希(朝日大学保健医療学部)
  • 永野翔大(東海学園大学スポーツ健康科学部)
  • 船木浩斗(中京大学スポーツ科学部)

論文概要:本論文は,スペインのエストレマドゥーラ州ハンドボール協会のウェブジャーナル「E-Balonmano」で紹介された「Specialization of handball players: Speeches of school team coaches」の翻訳である.本論文の著者は,サンパウロ大学(ブラジル)のWalmir Romário dos SantosとRafael Pombo Menezesである.筆者たちは,この論文において,学校部活動チームのコーチの語りから,ハンドボール選手の専門化の時期について検討している.コートプレーヤーとゴールキーパーの具体的なトレーニングをいつ強調すべきかどうか,専門化の過程において最も適切な年齢などの定義が可能であることを実践的に提示している.ゴールキーパーにおいては,U-14チームにおいて基本的なポジションと具体的な動作を発達させることから始まり,U-16チームにおいて専門化していく.コートプレーヤーにおいては,U-18チームで専門化するまでに,多様性と複数性のある特定のポジションを発達させることを始める.

(受付日:2022年2月24日,受理日:2022年4月20日)

12の状況におけるウイングディフェンダー

(その他・翻訳)

  • 山本達也(茨城県立土浦第三高等学校)

論文概要:本論文は,国際ハンドボール連盟(IHF)で紹介された「The wing defender in a one-against-two situation」の翻訳である.本論文の筆者は,ドイツ女子代表チームやドイツジュニア代表チーム,ブンデスリーガHSG Wetzlarのコーチとして活躍しているIHFアナリストのJochen Beppler氏である.筆者は,この論文において,2019年に日本で開催された女子世界選手権を分析し,12の状況におけるウイングディフェンダーの守り方に関する見解を述べている.本論文には,6つの場面に分けて,12の状況下のウイングディフェンダーのプレー分析などが紹介されている.また,IHF – Education Centreに解説動画が載せられている.

原文

The wing defender in a one-against-two situation

https://ihfeducation.ihf.info/Coaches/Analysis/details/tag/tactical-analyses/item/the-wing-defender-in-a-one-against-two-situation

解説動画

ビデオ1https://youtu.be/JajAhiUgnNo

ビデオ2https://youtu.be/EQKkJMQrz7g

ビデオ3https://youtu.be/KBEHS4Tl6JY

ビデオ4https://youtu.be/7-1pR7BYy8E

ビデオ5https://youtu.be/Q8hfinD9qjU

ビデオ6https://youtu.be/kKRkLcWQuSA

(受付日:2022830日,受理日:2022914)