機関誌「ハンドボールリサーチ」 第14巻をJ-Stageへ公開しました

機関誌「ハンドボールリサーチ」第14巻をJ-Stageへ公開しました

 

ハンドボールリサーチ 第14巻(2025)掲載論文の概要

原著論文

ハンドボールゲームにおける勝利確率を活用した選手の貢献度評価法の提案

川村 陸哉, 山本 義郎

本研究では, ハンドボール競技における選手の勝利貢献度を測定し, 解釈や比較が容易な評価モデルの構築とその活用を提案する. 従来の評価指標は得点数やセーブ数などの単純な統計量に依存していたが, 提案モデルでは試合状況に応じてプレイの価値が変動するよう設計し, 試合の局面や得点差を考慮した評価を可能にした. MEN’S EHF EURO 2024の試合データを用いた分析の結果, 試合終盤や接戦時のプレイの価値を高く評価できることを確認した. また, パラメータ設定に関する数値実験を行い, 提案手法の客観的な評価基準としての有用性を示した.

本手法は, 選手ごとの勝利貢献度を定量化することで, 従来の集計指標では捉えきれなかった選手の影響力を明確に評価できることを示した. 一方で, 得点率の算出方法や試合中の得点分布の変化, 選手の出場時間を考慮したさらなるモデルの改良が必要である. 今後は, リアルタイムでの選手評価システムの開発を進め, 戦術的意思決定を支援するツールとしての実用性を高めることを目指す. さらに, 本手法は日本リーグなどの競技運営における新たな評価基準としての導入が期待され, 選手獲得や育成方針の策定, ファンへの競技の魅力発信にも寄与する可能性がある.

 

原著論文

小学校体育科における現代的教育課題へのアプローチとしてのハンドボール単元

:運動有能感と学級参画力の向上に向けた実践的検討

山下 純平

本研究は,小学校体育科におけるハンドボールの教材的特性に着目し,構成主義的学習観に基づくGame Sense Pedagogy(GS教育学)を援用した「ゲーム中心の学習指導方法」による授業構想の実践を通して,児童の運動有能感および学級参画力にどのような変容が生じるかを実証的に検討したものである.教材としてのハンドボールは、「誰もが参加できる闘争的スポーツ」としての成立背景と,技能保障のしやすさや戦術構造の明確さなど,ゲーム中心の学習に適した特性を有している.対象は小学校4・5年生とし,愛知県内の8学級において全8時間構成の単元を実施した.授業では,ルールの合意形成,協働的課題解決,セルフジャッジなどの活動を通じて,ゲーム中心の社会的学習の機会を設計した.

本研究でいう「現代的教育課題」とは,学習指導要領改訂に向けた文部科学省審議資料(2015年)に示された「自己肯定感の低さ」や「社会参画意識の弱さ」など,学習者の心理的・社会的側面に関わる課題を指す.これらの課題に対し,本研究では運動有能感と学級参画力を,実践の成果を示す指標として設定した.

その結果,運動有能感はハンドボール単元を通じて全体的に有意な向上が見られ,特に下位群においては「身体的有能さの認知」「統制感」「受容感」の3因子すべてで顕著な肯定的変容が確認された.また,学級参画力においても総合得点および5つの因子(目標達成力,対話創造力,協調維持力,規律遵守力,安心実現力)すべてで有意な上昇が見られた.

これらの結果は,ハンドボールが「誰でも参加しやすく,ゲーム中心の学習を実施できる教材」として高い教育的価値を有していること,また体育の授業が技能習得にとどまらず,学級文化の形成や社会的スキルの育成に寄与する「社会的学習の場」として機能し得ることを実証的に示した.

 

原著論文

ハンドボール競技者におけるオフェンスパフォーマンス評価尺度の開発

小室 大地, 高井 秀明

本研究では,ハンドボール競技者におけるオフェンスパフォーマンス評価尺度の開発を 目的とし,その信頼性と妥当性を検討したうえで,性別や競技カテゴリー,競技レベルに よるオフェンスパフォーマンス評価尺度得点の特徴について検討した.ハンドボール競技 者を対象として Web アンケート調査を実施し,520 名(男性 309 名,女性 211 名,年齢 20.71±4.94 歳)を分析対象者とした.得られた回答からはハンドボール競技者における オフェンスパフォーマンス評価尺度の因子構造を確認するため,探索的因子分析を行った. その結果,オフェンスパフォーマン評価尺度は 3 因子 12 項目からなることが明らかにな った.その後,確認的因子分析を行ったところ,十分な適合度が示された.本研究の結果 により,一定の信頼性と妥当性を有すオフェンスパフォーマンス評価尺度が開発された. 性別や競技カテゴリー,競技レベルによるオフェンスパフォーマンス評価尺度の得点の特 徴の違いもみられた.

 

実践研究

ハンドボール競技のセットディフェンスにおいて積極性と予測性の養成を試みたコーチング事例

宮代 花菜, 會田 宏

本研究の目的は,大学男子ハンドボール部を対象に,セットディフェンスにおける積極性や予測力,対応力の習得をねらいとした3ヶ月間のコーチング活動を,コーチング活動前後に行われた公式戦のゲームパフォーマンスを比較して評価すること,またそれらを通してハンドボールにおける6:0ディフェンスのコーチングに関して,実践現場に有用な知見を提供することであった.3ヶ月間のコーチングでは,毎回の練習において,パスゲーム,1対1のディフェンス練習,3対3のスモールサイドゲームを段階的に行った.

結果は以下の通りである:

1)PV無とPV有のいずれのプレー場面においても,パスレシーバーにボールが来る前にアタッカーに備えるディフェンス行動が増加した.

2)PV無のプレー場面においては,10m以上の位置と7~6mの位置でのディフェンス行動が減少し,奥行きをコンパクトに保って守るようになった.

3)PV有のプレー場面においては,フォーリングアウト・セキュアリングやスイッチといった,隣のディフェンダーとの連携によってグループ戦術を機能させるディフェンス行動が採られるようになった.

これらのことから,今回のコーチング活動が,自身のマークが行おうとしているアタックを先読みし準備するという予測力を養成させ,それに加えてPV無のプレー場面では主に個人戦術力を,PV有のプレー場面では主にグループ戦術力を機能させていったと考えられる.